その醜い心にくちづけを


「嫌なら全力で抗え、そしてどこへでも逃げればいい」

そう告げられた後、帯がしゅるしゅると解かれていく。
私は抵抗しなかった。
このまま黙っていれば、好きなひとと繋がることができると思ったからだ。
こんなことを考えつくなんて、私は相当醜い心の持ち主らしい。

だいぶ拘束感がとれたと同時にパキンと何かが凍り付くような音がして、部屋は闇に包まれた。
暗さに慣れない目を閉じたらほっぺたを手で閉じこめられて、唇に柔らかいものが触れた。

「……」

初めて交わした口づけ。売られた身で恋い慕う男性と口づけを交わせたことはうれしかった。
普段のクラサメ様の優しさが唇を通じて伝わってくる。
何か、宙にでも浮いたような気分になりそうだ。

「…ン、……」

新しい空気を求めて僅かに開けた唇の隙間から、熱い舌が進入してきた。
情事のことなんて触って入れて気持ち良くなるくらいしか知らなかった私は息を奪うような口づけに困惑した。
抵抗しようとして舌を舌で押し返そうとしたら上手く絆され絡められ、逃げようとすれば追いかけられた。
時々舌を吸われたりして体が跳ね、部屋には絡んだ唾液が生み出す水音が響く。

「っふ……、」

息苦しくなって彼の胸を押し返すと唇が離された。
ツゥ、と銀の糸が私とクラサメ様を繋いで、それを直視できずに私は顔を横に向ける。
口づけのせいで私の体の芯が溶けてしまったようで、体が不可解なほど火照った。

帯が解かれたせいで緩んだ襟元を押し広げられ、羞恥でさらに顔が熱くなる。
そのまま胸元に顔を埋められた。

「…ぁ、…」

ねっとりと先端を舌で撫でられたあとに口に含まれて、恥ずかしい声が漏れた。
とっさに口を手で塞ぐが体に力が入らず、上手く押さえられない。

「感じやすいな……、声は我慢するな」

舌先で転がしながらも時々歯を立てたり、吸ったり、美しい手で触ったり。
もう一方も然りで、彼から与えられる未知の刺激に体が跳ねる。

怖い。
口を押さえないと、感情が溢れてきそうで怖い。
素直に言えば良いものの、醜い私には無理だ。

降りてきた彼の舌がお腹やおへそを通り、太股で止まった。
舌と同じルートを辿ってきた指先が太股から足の付け根へと延び、下着越しにソコに触れた。
くにゅ、と指で押されたら堪らなく体が跳ねた。

「あっ…、ぁ…」

初めて他人の手が触れたソコは異常なほど熱を持ち、触れているクラサメ様の指は私の理性を熱く液化させた。
それはもう、ドロドロに。

何度か感触を確かめるように擦った後、下着の中に手が侵入してきた。

「…ぁ、う……」

何度か割れ目を指が往復した後に、中に指が入ってきた。
くちゅ、と水音が漏れる。
そのまま中を解すように動かされれば、またしても声が押さえらなくれる。

「ぁ、…っん…」
「あまり締めるな、私のが入るか不安になる」

ふっと笑んで優しく口づけられた。
お腹の奥がきゅんと疼く。
また、感情が溢れ出しそう。
ダメ、我慢できない。溢れちゃう。

「くら、さめ様…」
「…ん」
「すき……っ、ぁ」
「…、」

言ってしまった瞬間ずるりと指が引き抜かれる。
あぁ、言ってしまった。
私の馬鹿、ばかバカ。
クラサメ様は驚いたような顔をした。

「…私も、好きだ」

すぐ優しい笑みに変わり、嬉しそうに私の頬に口づけをした。
心の奥が暖かくなった気がした。

「…続き、してもいいか」

熱を孕んだ瞳に見つめられ、私はこくりと頷いた。