嘘の二乗は愛の四乗




風の月1日はエイプリルフールでございます!
私ことオリもウソをついてみたいと思います。
え?もちろんクラサメさんに。






「クラサメさん、話があるんです」
「わかった、なんの話だ?」


真剣な顔を頑張って作る。
あ、やばい、笑っちゃうかも…。
堪えるんだ私!

こほんと咳払いをしたあと、私はわざとらしくクラサメさんから目を逸らした。
あれ…、なんかこれ緊張するなぁ…。


「クラサメさん、実は…」


下腹部をさすりながら私は言った。





「できました…」
「…なにが?」
「…赤ちゃん」


そっと顔を上げると目の前のクラサメさんは目をパチクリさせていた。
もしかして、めちゃくちゃ驚いてる?

…これは面白い。そう思った私はもう少し演技を続けることに。


「本当か…?」
「ほんとですよ、触ってみますか?」


そう誘うとクラサメさんは一瞬躊躇ったが、私のほうへ歩み寄って来てゆっくり優しく私のお腹をさすった。


「ここにいるのか…?」
「はい。クラサメさんがお父さんですよ?」
「そ、そうか…。なんだかくすぐったいな、父親の気分は」


口角が上がりそうなのを必死に抑えているクラサメさん。別にニヤニヤしたっていいのにな。
私はクラサメさんが面白くてニヤニヤしたいんだけどね。


「ありがとうオリ、愛してる」
「ん……」


クラサメさんの顔が近づいてきて、そのままキスをした。

……あれ、どのタイミングでネタバラししたらいいかな…?
あれ、あれれれれ。



結局この日はネタバラしができず、お腹を撫で回されながら一日が終わった。










「エミナ、カヅサ!」
「あらクラサメ君じゃない」


早速、昨日発覚した事実を同期に伝えることにした。
やはり旧友だから、こういうのはしっかり報告すべきだと思うんだ。


「聞いてくれ、実はーー」
「どしたの、遂に子供でもできちゃったのかい?」


その瞬間、シーンとなった。
何故だ、何故こいつが知っている。


「ボクって核心突いちゃった…?」
「え…、まさか本当にできちゃったの…?」
「な、なんで知ってるんだ…?」


三人でそれぞれ後ずさり。
そしていきなりエミナとカヅサが詰め寄ってきた。


「クラサメ君おめでとうっ!これでクラサメ君もパパだネ!」
「うあぁぁっ、ボクのクラサメ君がぁぁっ!!」
「…ありがとう。そしてカヅサ、私はお前のものじゃない」


軽く小突いてやると、候補生の頃から変わらない笑顔を私に向けてくれた。








「名前とかはどうするの?」
「あー、それ僕も気になるなぁ」
「名前か……」


これから生まれてくる子供にオリと私で名前をつけて、その名前を呼んで…。
そう考えると頬が緩みまくった。


「あー、クラサメ君、その緩い笑顔やめなさい」
「っああ…。」
「名前の話に戻るけど、例えば男の子だったらどうするの?」


男か…。


「クラ太郎とか、サメ介」
「「は?」」


なんだ?私は変なこと言ったか?


「ちょ、なにそのネーミングセンス!それじゃあダメヨ!」
「ついでに女の子だったらどうなんだい?」
「クラ美とかサメ子」


目の前の二人はがっくりと肩を落とした。
オリの名前を入れようにもどこからどう取ればいいかわからないから、とりあえず自分の名前をモチーフにしてみたんだが…。


「なにそのジャ●子的なネーミング」
「まぁ名前はいいじゃない。赤ちゃんって服もちっさいよね、ワタシも欲しいなぁ〜」
「エミナには入らないんじゃないか?(バスト的な意味で)」
「ワタシじゃなくて、赤ちゃんが欲しいのよ」


エミナは置いておき、衣服か…。



「"またにてぃ"というヤツだな?」
「それはオリ君が着るんだよ」


ふむ、わからん。
でも赤ん坊の服というのはさぞかし小さいんだろう。


「モーグリの着ぐるみとかって可愛いんだろうなぁ…」
「クラサメ君にはトンベリを推奨するよ」
「私はトンベリのほうがいいと思うが、多分オリはモーグリのほうがいいと言うんだ。」


そこまで話したところで授業開始5分前の鐘が鳴った。
まぁその辺はご夫婦でごゆっくり決めなよ、そう言ってエミナとカヅサは去って行った。

果たしてどんな子供が生まれるのだろうか…。











「っあの、クラサメさん…」


今日もお勤めが終わり部屋でのんびりしていたところ、私は嘘だということを伝えるべくクラサメさんの前に立ちはだかる。


「どうしたんだ?」
「あの、なんていうか」


どうしよう、嫌われちゃうかなぁ。
こんなくだらないことをしているんだったら、もっと仕事に精を出しなさい。
そう言われる気がして体が震える。

次第に、じわりじわりと涙が滲んできた。


「…っごめんなさい!」
「……?」


ぱっと頭を下げた。


「赤ちゃんできたのは嘘で、昨日はエイプリルフールだったから、ちょっと嘘ついて驚かそうと思ったんです。
 でも、なかなか本当の事いうタイミングが掴めなくて…、こんなに長い間騙すとは思ってなかったんですっ!」
「……」


どうしよう、怒ってるかな…。
呆れられちゃったかな、だってあんなに喜んでたもん…。


「っひっく、ごめんなさ…い」
「……」


涙でぐしゃぐしゃになって震える声で謝っても、何も返ってこない。


「ごめんなさい、クラサメさ…っ!!?」


もう一度謝った瞬間強く抱き寄せられて担がれた。
かなり乱暴に抱きあげられたせいか、お腹が痛んだ。

クラサメさんは無言で歩く。

程無くして着いたのは寝室。
ベッドの上に投げられて、僅かな灯りさえ灯さずに真っ暗な闇の中で覆いかぶさられた。

つきん、つきんとお腹が痛み続ける。


「っ!?」


手首を掴まれて顔のすぐ横に押し付けられた。
物凄い力で握りしめられて痛い。

怖い、怖い怖い、怖い、怖い。
どうしよう、本当に怒らせてしまった……!










恐怖心でまた泣き出しそうになった瞬間、予期せぬ痛みが体を襲った。


「っうあ…っ」


先程までは些細な痛みだったのだが、突然その痛みは耐えがたいほどの痛みに変わった。
お腹がナイフで刺されたように痛む。
あまりの痛さに私は呻いて、悶え苦しんだ。

その様子にクラサメさんも気付いたようだった。


「…オリ、オリ…?」
「…ふ、っく…、あ"ぁぁあっ」
「すまない…っ!今、医療課へ運ぶから」


物凄い心配そうにしたクラサメさんは、再び私を抱きあげた。
今度は優しく。


あまりの痛さに、死ぬかな、とか思った。
だって本当に痛かったんだもん。

間もなく、私の意識はプツリと切れた。














目を開けると真っ白な天井だった。


「オリ、オリ…っ」


視線を少し横にずらすと、そこにはクラサメさんが。

手があったかい。
もしかして、ずっと握っててくれた…?
あんな酷い嘘ついちゃったのに、クラサメさんは本当に優しい。


「クラサメさん…?」
「よかった、気付いたな…。起き上がれるか?」


こくりと肯くとゆっくり抱き起こしてくれた。


「いま検査結果を知らせてくれるそうだ」
「…そっか」


癌とかかなぁ。
やだなぁ、死んじゃうのかなぁ。
末期、だよね―――。



「オリ、検査結果を話すわ」


ドクター・アレシアがカルテを持って病室に入ってきた。
その表情は固い。
…やっぱり。










「3ヶ月よ」


はぁ、やっぱりか。
あと3ヶ月しか生きられないんだね。

握られたままのクラサメさんの手をぎゅっと握った。
クラサメさんの表情も暗い。


「…延命はしなくていいです。だからこの3ヶ月は自由に―――」











「何を言っているの?私は妊娠3ヶ月目と言いたいんだけど…。」




「えっ」
「えっ」





―――4月2日、それは嘘が本当になった日。


END