おしまいを嫌う青い約束



私は今、壁とクラサメに挟まれている。
いわゆる壁バン状態だ。

「ひっ…、」
「お前のせいだ、これを見ろ」

クラサメは超絶至近距離でマスクを取った。

出てきた素顔は綺麗で、右頬には真っ赤な手の跡がくっきり。
あ、これって私が昨日ぶった跡…?

「全く、一晩経っても腫れは引かないし痛いんだが?」
「ご、ごめん…」

本当にごめん
でもその前に離れてくれないかな、せめて20cm。

あらためてクラサメの顔をよく見たら、それはそれは綺麗な顔だった。
口元から喉にかけて、痛々しいやけどの跡があるのが残念だけど。
切れ長の目、通った鼻筋、すべすべの肌。
色っぽい唇。

あれ、なんか緊張してきた。
ドキドキしてる。


「…お前がこれを治せ」
「え、あ、うん。でもどうやって…?」

生憎と私は回復系が苦手だ。
ケアルを唱えるには装備で魔力を補わなければならない。

次の瞬間には信じられない言葉が。


「キス、しろ」
「…っうぇ?」

思わず間抜けな声が。
え、ちょ、もう一回。

「ここに、キスしろ」

赤くなった右頬を指さして言われる。
意味をやっと理解したとたん、かあああっと顔が熱くなった。

「む、無理っ!指揮隊長にそんなことできるわけないじゃん!それに第一、私はキスをしたことなんて」
「…ほう、無いのか」

あっ、やばい。
と思った時には遅く、つい口が滑っていた。
ファーストキス未経験、大暴露ー!!

クラサメの目が妖艶に光る。
思わず、ぞくりとした。

「練習しとけ」
「無理、無理無理無理ですっ」

というか何無茶苦茶言ってんだこの人!
生徒と教官のスキャンダルなんて知られたら、人生終わりだ!

「私を押し倒して襲おうとしたと、バラしてもいいんだぞ」

何それ!さも私がクラサメを襲った馬鹿女のような言い分だ!
どうする?となおさら顔が近づく。
吐息が触れるくらい近くに。


「っ、目、瞑って」

目を閉じたのを確認すると、私はクラサメの頬へと唇を突き出した。
あと1cm、あと5mm、あと―――。

ぎゅっと目をつむって、触れるだけのキスをした。

「…あの、したけど、」
「不合格、もう一回だ。心を込めてやれ。」
「はぁぁ?!」

このブラックリスト野郎がぁっ!!




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クラサメさんはご機嫌になって、これからは毎日キスをしろと調子に乗りましたとさ。






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