「別れよう」 たった一つの別れの言葉が破滅を呼ぶ事になるなんて思わなかったでしょうね、貴方は。 部屋の気温に反比例するかのように震えが大きくなっていく指先。 視線の先には紅い海の中に横たわる貴方。 赤く染まったナイフを視点の定まらない目でぼんやりと見つめる。 心臓が壊れそうな程に鼓動しているのは、現状に対する動揺から?それとも高揚感? 取り返しのつかない事をしてしまったのは私。 だけどその原因を作ったのは貴方。違う? 私以外の女性を愛する事なんて最初から許されていないの、貴方には。 甘い言葉を吐くのも、抱き締めるのも、私だけでないと駄目。 貴方が他の誰かにそんな事をしたなんて考えたら、嫉妬で気が狂いそうだもの。 "別れ"?そんなもの、私達の間には来ないわ。 貴方が悪いのよ。 あんな事を言うから。 私以上に貴方に相応しい女性はこの世に存在しないと言うのに、貴方は何も分かっていないのだから。 紅い海に沈む貴方の表情は、本当の海のように真っ青。 そんな表情さえも堪らない程いとおしい。 私が紅い海に溺れたら、もう一度あの日のように抱き締めて? そう心の中で呟いて、熱を失った貴方の頬にそっと口づけた。 …… 愛してた。 違う、今でも愛してる。 狂おしい程に、貴方を。 不思議ね。 貴方の物であれば、血の雫さえもいとおしいなんて。 不気味な静寂の中。 怪しく光る刃先にこれ以上無いほどに魅力を感じて、微笑みが漏れた。 共に散りましょう。 そして永遠に二人で。 怪しい光が身体を貫いた瞬間、私は紅に溶けた。 I want to drown in the crimson sea. 2010.04.17 (C)佑紗 |