「彼らが動くことはもうありません」


レイ・ルクは感情の読み取れない声でそう言った。カプセルに閉じ込められたままのレイ・ルクの仲間たちは彼と同じように目を開けることはもうない。
そんな彼らを、レイ・ルクは無言で見続ける。何かを考えているのか、はたまた何も考えていないのか、その答えは私には分からなかったけれど、それでも暫くの間レイ・ルクは彼らから目をそらさなかった。

さて、これからどうしようか。







オレンジ色の空の下に一人とレイ・ルク。この場合は二人と数えてよいのだろうか。まあ、とにかく。
私はカプセルの部屋からレイ・ルクを連れ出した。どうやらかつて彼が活動していた時間からかなりの年月が過ぎているらしいことが分かったからだ。
彼の所属していたというエルドラドは、数十年前に無くなってしまっている。そして世界も、事実上なくなってしまった。それを説明するには、外の世界を見てもらうしかないと思ったからだ。


「現在地確認完了、セントエルダの街××地区付近」


外の惨状を見たレイ・ルクは一つも表情を変えずにそう言った。
彼が活動していたころのセントエルダとは全く違うであろう街の現状は、彼の目にはどう映ったのだろうか。


「データがありません」
「え?」
「我々はネットワークにアクセスして情報を集めています、ですがそのネットワークに何らかの異常を確認しました」
「多分、なんだけど…もうそれ使えないかも。ネットワークどころか、電気も通ってないから」
「了解。大気汚染の広がりを確認、戦闘の痕跡を確認、酸素不足確認。このような環境になった原因は環境破壊からの気候変動による資源不足が引き起こした各勢力間の戦争が原因と予測されます」
「ん、その通り。といっても戦争は随分前に終わっちゃったんだけどね」


無意味な戦争が終わった今はどんどん人口が減少していって、緑も同じように無くなっていって…
今では生きている人を探すのが難しいくらいだ。


「ヴ、ヴヴ…バッテリー不足確認、ただちに補給してください、ヴ、予備バッテリーを使用します」
「…レイくんのバッテリーは、あとどれくらい持ちそう?」
「予備バッテリーは48時間持つように設定されています」
「48時間か〜…」


二日、二日かぁ。


「レイくんはこれからどうするの?」
「私には現在課せられているミッションはありません」
「…じゃあ、さ。私と一緒にいてくれないかな?」
「何故」
「何故、か〜…そうだな、寂しいからかな?」
「寂しい」
「うん、寂しいの」
「それは一人だからですか」


ここ数か月、私は一人だった。
誰にも会うことなく、たった一人で生きた。最初の頃はとても寂しかったし、死ぬのがとても恐かった。
今は一人という環境にも慣れて、最初の頃よりは寂しいという感情も、死ぬのが怖いと思い震えることもなくなってはいたのだが…。

こうして久しぶりに誰かと会話をすると、やっぱり落ち着く。



きっと私はそう長くはない。レイ・ルクも長くはない。最期くらい、誰かと一緒にいたいな。レイくんは機械だけど。
私はレイくんにコクリと頷いた。すると彼は、やはり表情を変えずに、私を見た。

しばらく、私たちはその場にとどまってオレンジ色の空を見上げた。
私たちのあたたかい最期のはじまりだった。






20130206




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