冬の寒い寒いバレンタインの街。繁華街の中心にあるビルの前で自分が規則的に吐き出す白い息を見ながら体を震わせた。
今日は決意の日。数年付き合った彼氏と話をつけるためにレインディアから遥々、ここまでやってきた。
遠距離恋愛なんて、聞こえはいいけど実際はただ辛いだけ。少なくとも私は会えない相手のコトをずっと愛し続けることはできなかった。
だらだらと続いたこの恋愛はすっかり冷めきったものになってしまった。このままではいけないと思い、私は今日彼ときちんと別れることに決めて、そして彼の住むバレンタインまでやってきたのだ。


ああ、それにしても寒い。昔はこんなに寒かったっけ、ここ。
なかなか現れない彼を待ちながら、ふと昔のことを思い返す。…あのころは楽しかった。確かに辛いこともあったし恐怖だって毎日のように感じていた。…だけど、一番楽しかった。8年前のあの日、私はトモダチたちと一緒に旅をして、かけがえのない日々を過ごしたのだ。…みんな、元気にしてるかな。もうしばらく会っていないな…。ニンテンにもアナにもロイドにも…テディ、さんにも。


テディ、さんか。
この街だった。彼とはこの街で出会った。私よりも六つ年上の不良のリーダーでぶっきら棒だけど、優しいお兄さん。
彼に憧れていた時期もあったけど、でも年齢が違いすぎて…想いなんて伝えられるはずなかった。…まあ、子供が年上に憧れるあのお決まりのイベントのようだと今では思う。



…それにしても、彼はまだこない。












今日も寒い寒いバレンタインの街。
オレはポケットに手を突っ込み、白い息を吐き出しながらいつものようにライブ会場に向かっていた…ら、通りがかったビルの前で女が一人突っ立っていた。
こんな寒い中なにしてんだ?と思い見ていると…なんだか見覚えがある容姿だ。…おいおい、アイツは…。


「おい」


オレが声をかけると、アイツ…名前はゆっくりと顔を上げて、それから驚き目を見開いた。
名前は8年前一緒に旅をした仲間だ。かなりのマセガキでいつもロイドやニンテンを尻に敷いていた。だけど、本当は寂しがり屋で心の優しい子だ。


「テディ!…さん」
「おいおいなんだそりゃ、前みたいに呼び捨てで構わねぇよ」
「…テディ、久しぶりだね、ほんと久しぶり」
「ああ、久しぶり。…大きくなったな」
「あらいやだ、私もう子供じゃないのよ」


そうやって笑う名前はオレが思っているよりもずっと大人の…女になっていた。
鼻の頭が赤くなっている所を見ると、随分と長い間外にいたらしい。…というか、コイツはレインディアに住んでいたよな…なんで、こんなところにいるんだ?


「…」
「…」
「…その、よ。なんでこんな所にいるんだ?」
「彼氏。彼氏待ってる」


その言葉を聞いた瞬間、何とも言えない感情が胸の中でぐるぐる回った。
…彼氏、か。…そうだよな、いつまでもオレの記憶の中にいるガキのままじゃないんだよな…。8年前、テディテディってオレの名前を呼びながら駆け寄ってきて、ちょっかい出したら顔真っ赤にして怒る…あの名前じゃ、ないんだよな。


「そうか…じゃあ邪魔しちゃ悪ぃな。オッサンはとっとと退場す「今日、別れるつもり」…は?」

オレが思わず聞き返すと、名前は少しだけ気まずそうに笑ってから話を続けた。



「たまたま、友達の紹介で知り合った人なの。初めて誰かに好きって言ってもらえて、舞い上がっちゃってそのまま付き合っちゃった。でもね、楽しい時間は長続きしなかった」
「……」
「私、ニンテンとアナの関係にすっごく憧れてて…誰かを愛して愛されて、ほら…ホーリーローリーのお山に行く前に、アナとニンテンが躍っていたでしょう?とても、羨ましかったの…。彼と付き合ってみて、確かに楽しかったけれど、これはあの二人の愛のカタチとは全然違うなって思って…」
「名前はソイツが好きだったのか?」
「…どうなんだろうね、好きになろうとしていたのかもしれないね」


オレも8年前はまだガキだった。こいつも8年前はまだまだガキだった。だけど、いつの間にか、俺たちが思っているよりもずっと長い時間が経っていた。
こいつも成長したし、オレもあの時よりは成長した。……。



「なあ」
「…?」
「その彼ってのはいつ来るんだ?」
「…わかんない、待ち合わせ時間はとっくに過ぎてるのに…」
「…ならよ」
「へ…え、テディ?」


オレは名前の手を取ってビルの下から道路脇まで連れ出した。突然のことに驚く名前の腕をさらに引っ張り歩きはじめる。



「どこに行くの?私…」
「冒険だ冒険」
「へ…冒険?」
「お前が8年前と違うのは承知だ。でもな、俺の中のお前は8年前のままなんだ。…だから俺は8年前の方法でお前を慰める」
「テディ…」
「湿地帯でも、なんならホーリーローリーに上ってあの山小屋でダンスしたって良い。だからよぉ、笑え」
「………うんっ」



名前は情けなく、でも綺麗に笑いながらオレの手を握る。
その笑顔は昔の面影を残しながらも、オレの両目にはとても美しく映って…。これだけは8年前のようにいかないな、と胸の辺りをおさえつつ、オレはしっかりと名前の手を握り返した。



20130402



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