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外見が良くて、身長もそこそこ高くて、私以上の良家の出身で、優しくて、包容力があって、本当の私を理解してくれて、私を大切に思ってくれる。これが私が異性に求める条件だ。よく白哉には欲張りすぎだと言われるけれど、私は当たり前の条件を並べているだけである。結婚相手とは、今までの人生の何倍もの長い間を一緒に過ごす相手だ。妥協して生半可な気持ちで結婚はしたくない。

私の身分が高いからとか、顔が好みだからという理由で私に見合いを申し込んでくる男がほとんどだった。私は基本的には男の誘いを断ることはない。デートに誘われれば乗っかるし、口付けを迫られれば受け入れるし、抱きたいと言われれば抱かれる。ちょっとしたことから好きになることができるかもしれないと、ほんの少しだけ希望を持っているからだ。だけど実際に私が本気で結婚したいと思えるほどの男に出会えたことは、一度だってなかった。

「……この前夜一さんが紹介してくれた人とお会いしましたよ。」

「ほう。どうじゃ?なかなかの男であろう。」

「申し訳ないのですが、お断りさせていただきました。」

夜一さんは私の報告に顔色を変えることはなかった。相変わらずのにやけた表情で、楽しげに私を見ていた。

先日、夜一さんの紹介である男とお見合いをした。はっきりいってしまえば顔があまり好みではなかった。顔ぐらいいではないかと思われがちなのだが、結婚相手の顔など結婚してしまえば一生目に入るものである。なるべくしっくりくる顔の人と結婚したい。

「もう私疲れましたよー。」

「何がじゃ?」

「自分を作るのが、疲れました。」

私は夜一さんの膝にころんと寝っころがった。夜一さんは昔から私と白哉に稽古を付けてくれた近所のお姉さんである。一時期姿を消した時にはもう二度と会えないのかと涙を流しもしたのだが、今はこうして時々私の家に遊びに来てくれる。約百年もの間会っていなかったにも関わらず、私の彼女に対する尊敬の念がなくなることはなかった。夜一さんが帰ってきてからというもの、私は夜一さんに甘えることが多くなった。

夜一さんと白哉の前では、自然体でいられた。昔からの仲ということもあり、自分を作る必要がないのだ。他の男の前で猫をかぶっている分、彼女らの前での私は恐ろしく行儀が悪かった。夜一さんは子どもをあやす様に、膝の上の私の頭を撫でた。その心地良さに、私は目を瞑った。

「私は、かっこよくて、身分が良くて、性格も良くて、本当の私を理解してくれて、私を大切にしてくれる人と結婚したいんですー。」

「ふむ。前々から思っていたことなのじゃが……」

うっすらと目を開くと、夜一さんは不思議そうな顔をしていた。その言葉の先をせかす様に、私は彼女の膝から頭を起こした。

「何ですか?もったいぶらないでくださいよー。」

「唄の中で、白哉坊は恋愛対象には入らぬのか?」

夜一さんの発言に、私は口を半開きにしたまま数秒間固まってしまった。夜一さんはにやりと口角を上げ、何かを期待するような表情で私の口から次の言葉が発せられるのを待っていた。

「…………たぶん、考えたことなかったです。」

少し遅れてやってきた私の発言に、夜一さんは盛大に噴き出した。彼女の発言に、私はなるほどと思ってしまった。白哉と私との近すぎる距離故に深く考えることはなかったが、彼は四大貴族朽木家の当主であり、あの美貌の持ち主、身長も高い。私の本来の姿を見ても少し眉をしかめはするが、愛想を尽かすこともなくなんだかんだで相談に乗ってくれる。客観的に見て性格が良いのかと言われれば少し危ういが、前妻の緋真やその妹であるルキアに注いでいる愛情を見る限り、おそらくそこそこ優しい方なのだろう。

「良いではないか、白哉坊では何か不満でもあるのか?」

「……いや、物件としては相当優秀なんですけどね……。」

私は腕を組んで考え込んだ。いくら幼馴染だとしても、自他共に認める恋愛脳である私が、こんなに条件に当てはまる白哉を恋愛対象から除外しているのには、何か理由があるはずだ。数秒間低いうなり声をあげていた私は、ふと思い出したのだ。私の男癖がこんなに悪くなったきっかけを。

昔の私はなんとなく、自分は将来白哉と結婚するんだろうなと思っていた。白哉はただの幼馴染でありそれ以上の関係でもなく、私がそれ以上の感情を抱くこともなかった。ただ、両家の親同士とても仲が良く、貴族の鉄則で行けばこのまま結婚するのだろうと思っていた。
恋愛感情はなくとも、白哉となら結婚しても良いと思った。白哉と過ごす毎日は楽しいし、きっと毎日幸せになるだろうと、ただ漠然とそんな未来のイメージを持っていた。……彼が緋真を連れてくるまでは。

緋真が朽木家に来てからというもの、私が白哉と過ごす時間は滅法少なくなっていった。夜一さんも姿を消し、白哉も他の女に夢中になり、私には頼れる存在が一人もいなくなってしまった。毎日が退屈だった。朽木家に顔を出しても、白哉の傍には常に緋真がいた。私は内心彼女に嫉妬していたが、白哉の大切な存在である。上辺だけの笑顔を浮かべ、二人と接していた。

夜一さんを失い、更には大切な幼馴染をどこの馬の骨とも知れぬ女に取られてしまった。ただでさえ苛々が募る日々の中、決定的な出来事が起こった。白哉が緋真と入籍したのである。
白哉は私と結婚するものだと思っていた。緋真と付き合っていても、それはきっと終わりのある恋なのだと思っていた。しかし彼の意思は私の想像を絶していた。

心の拠り所をなくした私は、片っ端から断りを入れていたお見合い話を、今度は片っ端から受けて行った。白哉よりもいい人を見つけてやろうと、その一心だった。白哉よりもずっと幸せな結婚をして、彼を見返してやろう。そう思っていくつもの縁談を受け、告白されれば付き合い、条件に合う男を探した。しかしいくら探しても、私の求める男は見つからなかった。

ならば、私の求める男とは?改めて思い返してみて、私は一つの疑問を抱くことになる。私は今まで何と比較して数々の男を見てきた?私は最終的に何を求めている?答えはわかりきっていたけれど、私はその答えを捻じ伏せた。

「唄との縁談ならば、白哉坊もまんざらではないと思うぞ?」

「……白哉は……」

口の中でぼそりと呟く。夜一さんの期待したような視線がとても痛いけれど、私の答えはきっと夜一さんの意にそぐわぬものだ。

「私は白哉の特別にはなれるだろうけど、一番にはなれないんですよ。」

私は夜一さんににっこりと微笑みかけた。あれ、おかしい。これじゃまるで、私が白哉の一番になることを望んでいるみたいだ。少しの間をあけて、夜一さんが私を抱きしめてくれた。そこでやっと、私は泣いているということに気付いた。

ああ、きっと私は無自覚に、ずっとずっと昔から、一人の男を追いかけ続けていたんだ。あまりにも近くて遠い、その男を。



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