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「#エロ」のBL小説を読む
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私たちは行きつけの居酒屋で、一週間ぶりに近況報告会を開いていた。会と言っても、メンバーは二人だけである。いつものように酒を飲み交わしながら、たまちゃんの松本副隊長への愚痴もとい上司自慢を一方的に聞かされていた。たまちゃんも席官ということで、女性死神協会の一員らしい。副隊長と関わるのは任務だけではないらしく、色々なプライベートな話も聞けて結構面白いのだ。
例えば松本副隊長が今何人の男の人にアプローチを掛けられているのかとか、二番隊の砕蜂隊長は実は女の人が好きだということとか、十二番隊の涅隊長は実はイケメンだとか、浮ついた話ばかりでその活動内容については全く言及されないあたり、本当にろくな活動はしていないのだろう。

「護廷十三隊ってもっとお堅いところだと思ってたけど、意外と緩いところあるんだね……。」

「ね、本当に!探せばもっとあるかもしれないね!」

酔ったたまちゃんは本当によく喋る。見ていて面白い。
護廷十三隊は、どうやら霊術院以上にアットホームな一面もあるらしい。過去には海水浴に行ったり、お花見をしたり、他にも色々な行事もしているらしい。もちろん恋愛面でも充実しているらしいが、それも当たり前の話である。何せ、護廷十三隊という空間の中で共に生活しているのだ。仕事の時間が圧倒的に多いのは当たり前だし、数々の戦地を共に潜り抜けてきた中で愛が芽生えるのも当然のことのように思えた。
私はふと、隊長のことを思い出した。今までは色恋沙汰には無縁だと思っていたが、どうやら彼には妻がいるらしい。

「京葭は、なんか面白い話ないのー?できれば、恋愛系で!」

「うーん……そういえば、朽木隊長が……」

「ええっ、あの朽木隊長が!?」

そう口にしてから、私ははっとして口を閉ざした。隊首室を去る時の、隊長の何とも言えないような表情を思い出したからだ。隊長に妻がいるということは、きっとあまり広めたくないことだったのだろう。妻がいるということは恐らくそこそこ知られているのだろうけれど、妻の写真自体はあまり見られたくないものだったらしい。
言っていいのか、言わない方が良いのか。でも、きっとたまちゃんに言ってしまえば女性死神協会の酒のつまみとしてそのネタが乱用されることは目に見えてわかる。ここは安全策を取って黙っておいた方が良い。

「何?どうしたの?朽木隊長がどうしたの?」

「……え、あ、その、別に恋愛系の話ではないんだけど……」

酒の入ったたまちゃんが扱い辛いことぐらい、長年付き合ってきた私は十分理解している。ここでこの話を引っ込めたところで、彼女が大人しく身を引く訳がない。私は慌てて話題をすり替えた。

私は懐から例の封筒を取り出した。あまり見せたい写真ではないが、この際仕方のないことだ。封筒から写真を出そうとして、私は手合せ後の写真だけを封筒に残し、最初に撮った二枚をたまちゃんに差し出した。隊長の屋敷の庭で記念撮影している写真など、酒の入ったたまちゃんに見せたら在らぬ誤解を招いてしまうような気がしたのだ。

「ええっ、なにこれ!?」

「ほら、この前話したでしょ。隊長と私のおばあちゃんが知り合いで、おばあちゃんに見せるために写真撮りたいって言ったら二人で撮られたって話。」

「ああ、あの時の!……で、これどこで撮ったの?」

「えっ、と、隊舎だけど……」

「ふうん。誰に撮ってもらったの?」

「……阿散井副隊長。」

間違っても、隊長の屋敷だとは言えなかった。隊長の屋敷とはいえ、背景は真っ白だ。どこで撮ったかなんて、この写真をパッと見ただけでは判断できないだろう。それにたまちゃんは六番隊の隊舎を見たことがない。何も疑問に思うようなことはないはずだ。
それでもちょっとしたことからばれてしまうかもしれない。それが少しだけ怖くて、たまちゃんの指からその二枚の写真を引き抜いた。たまちゃんは少し名残惜しそうに写真から手を離した。

「京葭ってほんと小っちゃいよね〜何センチだっけ?」

「……145、ぐらい……。」

「へぇ、でも日番谷隊長よりは大きいんだね!」

本当は、142センチなんだけど。まあ3センチぐらいなら鯖を読んでも問題はないだろう。実際に隊長と私が並んだ写真を見ると、二人の身長差は目に見えて明らかだった。私はいつもこの高さから隊長に見下ろされていたのだと思うと、隊長の身長の高さが少しだけ恐ろしくなった。

「牛乳沢山飲んで、沢山寝れば大きくなれるって日番谷隊長が言ってたよ!あの隊長、いつもお昼寝してるもん。」

「そうは言ってもあの隊長全然身長伸びないじゃん。信憑性皆無!」

「逆にあの身長はすごいよねぇ。小さすぎ。」

「あーら、珠緒に京葭じゃない!上司の陰口なんて、随分と良いご身分ね!」

するりと上から伸びてきた手が、私の手から二枚の写真を鮮やかに奪い取った。一か月ほど前から私を下の名前で呼び捨てにするようになったその女の声には、心当たりがあった。弾かれるように後を見れば、そこには見知った顔が。私の手から写真を奪ったのは松本副隊長。そして、その後に控えるのは阿散井副隊長と、吉良副隊長だった。



(執筆)130304
(公開)130308