有無も言えないこんび
日は沈み、グラウンドの光に虫が寄ってきている頃。お疲れ様、と今日が終わる合図を選手たちが言葉にしていた。
練習着から着替え、それぞれが自分の自転車にまたぎ、コンビニまで進めていった。
コンビニで西浦野球部はいつも通り食べ物を買って、コンビニの前でたむろっていた。
皆、他愛のない話をしていた。その時、遠くの方から大きな声が聞こえた。その声は、だんだん大きくなってくる。

「あーずーさー! 花井梓ー!」
「げ。彩花っ。お前、静かにしろよな!」
「迎えに来たのにー。なんか奢れよー」
「奢らねぇよ!」
イライラとした声に、ヘラヘラとした声。その声に、周りの人々はポカーンとしたままであった。

「花井、そいつ誰だ?」
泉はへらへらとした声の子に向っていった。花井は、別に、とはぐらかす。そのはぐらかしが、その子をイラつかせているのが阿部にも分かった。

「彼女かー?」
「せーかいだよ!」
田島は本当に空気が読めない奴なのか読める奴なのか、と思った奴らがちらほら。しかし、その情報は野球部にとってとても面白いニュースであった。

「もういいだろ。帰るぞ」
「えぇ、言いじゃん! 梓のケチ」
「夜遅いし、もうこの時間帯は帰るんだよ」
「あ、もしかして、妬いてる?」
「妬いてねぇよ!!」
コンビニの前で大声を出したものだから、視線が一気にこちらを向いた。花井や栄口など、親的ポジションの人達は照れ、謝っていた。その他の人達は、彼女に向かって沢山の質問をしている。

「もうシたのか!?」
「た、じまくん。声、お、おきい」
「田島ァ! 変な質問してんじゃねぇよ! ほら、帰るぞ」
無理やり腕を引っ張って、自転車に乗せた。彼女はうふふといまだに嬉しそうに笑っている。

「また明日な」
「おー、じゃあな、花井」
「じゃーなー!」
「さ、ような、らっ!」
あちらこちらから聞こえる挨拶。コンビニから遠ざかって行く。ブンブンと隣を通る車に彼女は目を向けながら家に着くのを待った。

「言えばよかったのに」
「はぁ? 何をだよ」
「スるのは大学生になったらって」
「言うわけねぇだろ!!」
花井はそう言って漕ぐスピードを速めた。動揺は隠しきれていないご様子である。




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