時よとまれ
僕にだって好きな人ぐらいできる。けれども、それは誰にも知られてはならない秘密だ、。僕だけの秘密。だから、相談とかは誰にもできない。
「ねぇ」
「え? あぁ、降谷君。いこうか」
どうしたの? と心配されたので、何でもないよと首を横にふった。危なかった。気を抜かないようにしなきゃ。
「小湊君! 忘れ物っ!!」
廊下に響く僕の名前。兄貴はもう卒業したから、確信できる。しかも、声からしてあの人……ではなかった。
「彩花が見つけてくれたんだよー? 感謝しなさい」
宮本の友達だった。その人のとなりには彼女が居る。僕は、ありがとう、と言った。彼女は、首を横にふるだけだった。
「この子、恥ずかしがりやだからさ。小湊君と同じ」
「そうなんだ……」
彼女の事を知れて、顔には出さないが嬉しかった。
「小湊君も……なの?」
「え? あ、うん。ちょっとね」
顔が赤くないか気になる。そんなとき、上から行こうよ、という声が聞こえた。退屈そうにしていたので、僕は謝った。
「じゃ、行くね」
「頑張ってね」
「ありがとう」
手を振る彼女に振り返す僕。切実に、時が止まってほしいと思った。