分かれ道で哲と別れて、私は帰路を一人、歩いていた。
周りには会社帰りのサラリーマン、サラリーウーマン。
学校の部活帰りの生徒。
「でね、先生がさー」
「あぁー、上司がウザい」
なーんていう声を聞きながらも、私は歩く。
誰ともしゃべらずに歩く。
考えている事と言えば、明日は大学だー、とか、ご飯何にしよう、である。
あ、そういえば、明日、友達とご飯食べる約束してたんだった。
*
「兄貴」
「どうした」
素振りをしていると、弟の将司が声をかけてきた。
珍しい。いつもなら無言で俺と一緒に素振りをするのに。
「彼女居たんだ」
「あっ? あ、あぁ……」
変な質問をされた。
こんな質問をする年頃になったのか、コイツは。
「そんなんじゃ……勝てる試合も勝てなくなる。
兄貴ってそんな器用な奴じゃないだろ」
まぁ、将司の言いたいことも分かる。
「あぁ、俺はそんな器用な奴じゃない」
俺はそう言って、また素振りを再開する。
チラリと横を見れば、将司も素振りを始めている。
「ふぅ、なぁ、お前も好きな奴とか居ないのか?」
休憩で水を飲みながら将司に聞く。
すると、は? という返答がかえってきた。聞えなかったのだろうか。
「いや、だから」
「聞えたよ」
言う前に言われてしまった。
「別に、俺は好きな奴とか今は作らないつもりだから」
「そうか」
ちょっと寂しかった。
兄貴だから、恋の話でも聞いてやろうと思ったのに。
まぁ、それもそうか。今は、専念したいものがあるからな。
「兄貴がそんな質問するって、明日は雪でも降るんじゃないのか?」
「明日は晴れだぞ?」
「いや、知ってるよ」
最近、将司が純みたいになってきたのは気のせいだろうか。