「じゃあ、気を付けて帰ってね」

「はい、ありがとうございました!
 さようなら」

「うん、じゃあねー」
藤原貴子ちゃん。私は、貴子ちゃんと呼んでいる。
その貴子ちゃんと別れて、私は学校に残っている。
ちょっと、仕事が残っているからである。



その時、かすかに音がした。
バットの降る音が。ほんとうにかすかに。



空耳であろうと思ったが、そうでも無いようだ。
歩くたんびにその音は大きく、そして確実なものになっていった。



「……哲也君?」
私は立ち止まった。
そこには、もう帰ったと思っていた哲の姿があったからだ。


「こんばんは」

「あ、こんばんは」
私は礼儀正しい哲に少し戸惑いを隠せなかった。



「えっと、いつもやってるの?」

「はい、入学の時からです」

「嘘!? それ、本当なの?
 いつも何回ぐらいやってるの?」

「家と学校、合わせて500回です」

「うわ、だから日に日に上達していってるのか」
私は納得した。
会話が途切れると、哲は素振りを始めた。


口元で回数を数えている。
今は、367回。もう暗いけど、一人で置いて行くのはちょっとあれなので
私は終わるまで待っていた。









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