私は彼氏の英雄姿を見た事が無かった。
まぁ、立場上しかたがないことだけど、女の子たちが嬉しそうに話すもんだからよく妬いてしまう。それを不覚にも倉持君に悟られてしまったのであった。

「今度、試合あっけど、どーすんすか?」
倉持はバットを振りながら言った。リズムよく私が膝元に投げるボールを倉持がネットに向かって打っていく。気持ちいいぐらいいい音である。
遠くから沢村君の声が聞えて来た。そして、その後に一也の嬉しそうな笑い声が聞えた。倉持はにやにやしながら、ボールくださーいと言ってきた。ので、今度は何も悟られないよう指示に従った。

「……そりゃ、行きたいけど」
当たり前っちゃ当たり前の答えであった。だけど、そんなことはできない、と自分で決めていた。
仕事があるというのもあるが、まだまだ半人前の私がこんな浮かれた事をしてはいけないという私自身の考えである。それに、これを機に皆に一也との関係を知られてしまったらこれまでの事が水の泡になる。

「まぁ、言いたいことはわかるけど。でも、あいつもあいつなりに先生に気使ってんだぜ?」
「んな、まさか」
「マジだっつーの。あいつだって……いや、何でも無いっす」
「え?」
ヒャハハと、笑った後、空になったかごに倉持は一人、だんまりとネット内に入ったボールを入れて行った。手伝おうとしたが、他行って良いですよ、と敬語で言われて私は一人ゾッとした。
そして倉持もどこか顔色が悪かった。


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