誰も使わない階段からコソコソと声が聞こえて来た。本当は監督さんに書類を渡さなければならなかったが、今は授業中。だから注意をせねばという正義感が勝ったのだ。(怖いけど)
そろそろと壁から頭を少しだし、誰だと声を出そうとした瞬間であった。私は思わぬ光景を目にしてしまった。そこには、一也と2Bだったはずの赤面をした女の子が居たからだ。この雰囲気といい、女の子の顔といい……と私は今、この状況の事を把握しようと試みた。

「悪ぃ、俺、好きな人居んだわ」
案の定、告白であった。返事も目に見えていたが、やっぱり少し驚きが隠せなくて私は反応してしまい、手に持っていた書類をバサリと落としてしまった。結構音が響いた。だから私は焦って、書類をかき集めて廊下を走った。危うく見つかるところであった。
私はふぅと息を吹き、冷静さを取り戻す。
私は乱れた髪を整えて、職員室へと入って行った。


「遅かったな」
監督さんは包むこともなく、バンッと言葉をぶつけてきた。道に迷っちゃって、と私は笑ってごまかす。でも、監督さんの顔は変わらなかった。その場の雰囲気を少しでも変えたくて、コーヒー淹れてきます!と監督さんのコップを持って行ったが、自分でできると私の努力を踏みにじられた。ヤバイ、心が折れそうだ。

「無理に何かをする必要は無い。自然体になれ」
「自然体ですか?」
「誰にでも悩みの一つや二つあるんだからな」
「……はい。ありがとうございます」
ポカリと空いた心が埋まったような気がした。何かを求めていたのだろう。監督さんはきっとその答えを知っていたからこそ、この言葉をかけてくれたのだろう。





「はぁ、なんで逃げるかな」
一人取り残された廊下で、俺は、一冊のノートを見つめながらつぶやいた。ノートの表紙には、あいつの名前が記されていた。
なんでわざわざ逃げるような事をするのか、俺には理解し難い行動であった。
だけど、理由は薄々気づいていた。でも、その言葉を口にしたら最後、あいつが俺の前から消えてしまいそうな気がしてならなかった。






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