倉持に背中を押された。私はまだ、ほんの少しだけ迷っていた。本当にいいのだろうか、もしも彼との付き合いがバレて学校じゅうに広まったら色んな人達に迷惑がかかってしまう。それだけは避けたいものであった。
それは、彼に、誘われても言えることである。
相談事はいつもいつも高島先生(礼さん)に聞いてもらっている。今日も聞いてもらおうと、誰も居ないプレハブの中に入って、待機していた。

「おい、倉持と何話してたんだよ」
ビクりと椅子から立ち上がり、私は後ろを振り返った。物音一つしなかったのだから、それはそれは寿命が縮むかと思えた。

「彩花、聞いてんのかよ」
顔の近くで手を振り、私の意識を確認する。聞いてるよ!勿論、と椅子に座りながら言った。これは大人の意地と言う奴で、子供の前では背伸びをしたかった。

「で、どうしたの?」
「……倉持と、練習中に喋ってたから」
「雑談程度だよ。で、御幸君は何しに来たのかな?」
「……スコアブックを取りに来た……んです」
少し不機嫌な顔をしてお目当てのスコアブックを片手に、髪の毛を触った。もう帰れば?という視線を彼に送り続けるが、彼はそれを無視してその場で黙ってたっていた。私は我慢が出来なくなって、ふぅと小さくため息をつき立ち上がった。一也は私の顔を真剣な眼差しで見ていた。私は先生面をしながら、御幸君? 練習は? と、言った。

「先生が俺の試合見に来てくれるって言ったら、行きますよ」
なんて、最後にイケメンスマイルをぶちかまされ、私は思わず無理、と開きかけたその口を自分の手でおさえつけた。ニヤニヤとこちらを見る彼に無性に腹が立った。

「分かってるくせに」
「ハッハッハ、何がですか? ちゃんと言ってくれないと」
その言葉の最後に、私は甘えてしまった。本当は行きたいこと、それを相談している相手、全部話してしまった。気づいた時には遅くて、私はその場の逃げ道を無くした。やってしまった、と思う気持ちと何故だか嬉しいという気持ちが混ざり合ってなんだか複雑な気持ちになった。

「俺はどちらかというと来て欲しいなぁ。ねぇ、背伸びなんてしないで下さいよ」
「御幸君……」
「礼ちゃんに怒られんの俺なんだけどなぁ」
なんて言いつつ、私の背中に腕を回して大丈夫だと呟いてくれた。私も無意識に一也の背中に手を回して泣き止むのを待った。ちょっと落ち着いたから、一也から離れて目元の涙をタオルで拭いた。ちょっとだけ色がついてしまった。

「私、行きたい……一也のカッコイイところ見てみたい」
「いっつも見てんじゃん」
「そうだったね」
素直だな、と言われいつもどおりだよと返した。


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