紅牙は家に入ると、一直線にある場所へ向かった
階段を上がって手前から二つ目の部屋
そこがこの家の娘の部屋だ
ドアをノックすると、少女から返事が返ってきた
「入るぞ」
ドアを開けると、そこには"可憐"という言葉がピッタリな少女が
窓から外を眺めていた彼女は振り返り、母親のように笑った
「…、迎えに来たよ由依。アイツが待ってる」
『"やっと"…なのかな。それとも、"もう"?』
「アイツからしたら"やっと"。由依の両親からしたら"もう"だな。どちらにしろ、"とうとう"この時が来たんだ」
そう言いながら紅牙は纏められた荷物を持った
由依は複雑な表情をした
嬉しそうな、悲しそうな、幸せそうな、辛そうな……対極に位置する感情がないまぜになった表情だった
そんな由依に眉を寄せた紅牙は少し考えると、口を開いた
「今は悲しくて辛いかもしれない」
でも、――――
「必ずお前は幸せになる」
それは推測でも、予想でも、その場凌ぎの言葉でもなく、断定だった
未来のことを言っているのに、過去の出来事を言っているかと錯覚する程に
必ず、と紅牙は言った
紅牙は暗に言ったのだ。それは確実で、決められた未来だと
そこにたどり着くまでは何があるのか分からない
けれど、どんなことがあろうとも、たどり着いた先にある事は決まっている
「お前は、由依は……世界で最も幸せな花嫁になれるよ」
そう言って、紅牙は由依の額にそっと唇を寄せた