『ただいま帰りました』

「お帰りなさい、由依ちゃん」


帰ってきた私に、お帰りなさい。と言う早苗さん
これはいつものことだけど、今日の早苗さんはおかしい
帰ってきたのが私と分かって落胆しているようだ

……帰ってくるなってこと?
いや、そんなことは無いか
そもそも私はこの家に世話になろうとは思っていなかったのだから
早苗さんが言うから世話になってるだけ

それにしても、何かあったのか?

いつもと違うところと言えば……

神無だ


『ただいま、早苗さん。神無は…?』

「……まだ帰ってこないの。学校に行ってるだけなのに…」


やっぱり神無か……

嘆きだした早苗さん

時計を見れば午後の七時半を少し過ぎた頃……戌三つ


確かに遅いかもしれない
私は説明してから家を出たからこの時間になっても大丈夫だけど
神無はいつも遅くても午後の五時…酉の刻には帰ってきているから

神無のことだから、友達と遊んでいるわけじゃないし、部活とやらで遅れているわけでもない
事件に巻き込まれたか、道草か……

どちらにしろ、このままにしておくのは好ましくない


『早苗さん。私、神無を探してきますね』

「えっ、由依ちゃん!?」

『大丈夫です。それでも心配なら、刀を持っていきます。勿論、上手く隠しますよ』


術を使って刀を異空間から取り出し、微笑む

術なんて、前は使えなかった
この時代に来た時、何かの影響で使えるようになったのだろう
便利で助かるよ


早苗さんは私の心配もしているけど、神無の方が大切なのは事実
必ず早苗さんは私に神無を探して欲しいと言うはずだ


「……じゃあ、お願い。…気をつけてね?」

ほらね?


『はい。いってきます』


私は玄関を出ると、階段を使わずに、ひらりと闇の中へ踊り出た


目を鬼特有の金色に変えて闇の中を走る
人間の目より、鬼の目の方が夜目が聞くから
神無を探すため、仕方なく耳も鼻も第六感も、角と髪の色以外を鬼の状態に戻していった


いつも神無が通る道
その脇にある家の屋根の上を走りながら
月を見上げた


空にある月は同じ
顔に当たる風も同じ

走っている道は違って
夜の闇も違う
人の活動も
町の様子も

同じものは両手で足りる程しかないなんて

また、事実を突き付けられたような感じがした

涙が零れたなんて…気のせいだ




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