黒尾と愛玩植物
私は人間ではない。人の形をした植物だ。総称は知らない。ご主人様が付けてくれた名前が、私の名前だから。
私たちは口付けた相手の感情で育つ、世にも珍しい植物だ。意思を持つ、上半身人間下半身は植物の摩訶不思議な生き物。生まれたばかりは皆似たような外見だけれど、与えられる感情で私たちは様々な容姿になる。
愛されれば、ご主人様に愛される容姿に。愛と共に容姿の要望が込められたら、それに近付く。愛が無くなると不細工に。しかし口付けが無くなったとき、私たちは死んでしまう。
「ただいま」
ご主人様が帰ってきた。私は笑顔を向けてご主人様を迎える。
口があるくせに話せないのは植物だから。でもご主人様が望んでくれるのなら私たちは言葉を操れるようになる。だから私は
「お帰り、鉄朗」
差し出された指に抱きついて囁いた。
それに彼も優しい笑顔を返してくれる。近付く顔に私も唇を寄せて、そっと合わせる。身体中を巡る彼からの確かな愛に、ポカポカと暖かくなる。
そうか、髪の毛を伸ばした方が良いのか。それから、耳を伸ばして…。エルフ?とかいうやつみたいに。
私は鉄朗が小さい頃から愛を貰ってる。必要最低限と言われる1日1回の口付けなんか目じゃないくらい。そりゃもう、鉄朗がしたいと思えば一時間近くちゅっちゅしてたことだって。だから私はその溜め込まれた愛で直ぐに容姿を変えることができるのだ。
「……こう?」
目を開けて、変わった容姿を鉄朗に見せる。鉄朗は微笑んで頭を撫でてくれた。
「あぁ。可愛いよ」
あぁ、今日も私は愛されている。
今日のことを教えてくれる鉄朗に頷きながら、私は幸せに浸った。大好きだよ、鉄朗。
―――――
望まれれば、人にだってなれる子たち。ただし生殖機能は無し。
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