影山飛雄と憧れの先輩


 影山には、憧れの先輩が居た。北川第一中学校に入って、及川という優秀なセッターと出会った。彼は確かに影山の憧れで、目標だった。しかしそれは一瞬の出来事で覆される。



 いつだったか。梅雨でジトジトした時期だった気がする。影山は体育館へと急いでいた。早くしないと部室を閉められてしまう。そうしたら只でさえ遅れている課題の提出がとんでもないことになってしまう。
 なんとか開いている部室に着き、ホッとしながら体育館の横を通ったとき、それは起こった。


――― ズパンッ


 強烈なスパイク音が影山の耳に届いた。そろりと覗くと、そこには及川と岩泉、そして見慣れない背中があった。影山の視線に気付いた岩泉がスッと手を上げる。影山はお辞儀をしながらおずおずと体育館へ足を踏み入れた。


「あれ?見たことない顔だ。一年?」

「ウス。影山飛雄です」

「へぇ!ポジションは?俺はウィングスパイカー」

「セッター、です」


 そうかそうかとニコニコ笑う先輩は、及川に呼ばれて離れていった。いつもは岩泉に上げるトスを、嬉しそうにその先輩に上げる及川が印象に残った。
 ボールを捉える鋭い目も、空を切るしなやかな腕も、ボールがコートに叩き付けられる力強い音も。全てが影山を魅了した。自分が上げたトスで、先輩に人生最高のスパイクを打たせたい。幼いながらにそう思った。



 しかしこれはどういうことだ。高校に入っても先輩は見付からない。及川さんに聞くのはプライドが許さない。そんな影山の前に現れたのは、憧れの先輩だった。


「あれ?影山?」


 先輩の纏うユニフォームには、白鳥沢という文字が踊る。少し影山と言葉を交わし、彼は仲間の元へ帰っていく。
 ショックだとか、先輩が敵だと厄介だなとか、そういうのは無かった。

 ただ、白鳥沢の試合を見て。自分の小さな夢は叶わないのだと、それだけが分かった。先輩のスパイクは、ウシワカにも負けず劣らず力強く圧倒的で、どこまでも輝いていた。


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