04
「はいはい、ラリー始めてねー」
「お、鬼…」
「丸井ワンセット追加でーす」
「もうダメじゃ…死ぬ……」
「仁王保健室連れてきまーす」
他のマネージャーと一緒に仁王を引きずって行った麗に、幸村は頬を緩めた。昨日は少し問題があったものの、麗は気にしていないように見える。
すると幸村の視界の端に山田が入った。丹波の隣でこちらをじっと見つめている。丹波は親が有名なテニスプレイヤーで、小さい頃からテニスに親しんでいた。身近にプロが居たからなのか、彼女はある才能を発揮した。それは観察眼。彼女は基本のフォームを知っているため、部員の小さなクセにも気づくことができる。だから監督は彼女にはコートの傍で練習を見てもらっている。だが、山田には他の仕事があるはずだ。
連絡は怠るし、麗に退部しろと言ったらしいし、丹波さんの仕事にもケチを付けているらしい。
赤也の証言では、蓮二のように何かをノートに書いているとか。ジャッカルは不気味な高笑いを聞いて、仁王は丹波と俺が話しているのを盗み聞きしていた山田さんを発見。丸井は要らないと言っているのに大量の手作りのお菓子を押し付けられて、真田は理不尽な文句を言われ、柳生は入れ代わってないのに入れ代わっているだろうと迫られた。問題しか運んでこない…。
「変な子が入部しちゃったなぁ…」
ぽつり。ついつい言葉を零すと、打ち合っていた真田がきょとんとした顔をしていた。それに「なんでもない」と言って、ラケットを振る。
大事にならないと良いんだけどな。
*** ***
「麗いる?」
そろそろ昼食にしようと思っていたら、猪崎がフェンスの向こうから声を掛けてきた。聞けば、約束の時間になっても来ないらしい。最後に見たのは仁王を引き連れて戻ってきたときだ。
「10分前ぐらいに見たけど……他のマネージャーに聞いた方が早いよ」
「そうか。ありがとな」
「いや、気にしないで」
ただ、約束の時間を忘れているか。それとも、手が放せないのか。どっちかに決まってる。そう、決まってるはずだ。
だから、この胸騒ぎは気のせいだ。
ただ、疑心暗鬼になってるだけだ。
「精市」
「蓮二か」
「昼食にしよう。佐久間は猪崎が見つける。心配することはない」
「……、そうだね」
蓮二に促されて号令を掛ける。ちなみに顧問は今、合宿最終日に行う練習試合の相手校を探している。予定していた相手校から突然のキャンセルが入ったからだ。顧問がここに居れば、山田さんのことも相談できたのに。タイミングが悪すぎるよ。
宿舎の人が作ってくれたお弁当を各々広げる。本当ならこの後も練習したいところだが、学生の本業は勉学だ。3時間の勉強時間が設けられている。既に自分は前から自主的に進めているから問題は無いが…。あるメンバーが脳裏を過ぎり、顔を顰めてしまった。
「勉強か」
「なんじゃ幸村。勉強が嫌なんか?」
「いや、勉強が嫌なんじゃなくて。赤也とか、丸井とか…ね」
「あぁ…」
思い切り、ご愁傷様、とでもいうような顔をされた。自分が教えないからって、いい加減腹が立つ。仁王の弁当から肉を奪って食べてやった。
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