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神奈川県大会があるから見に来い、との連絡があった。なんでまた、という気持ちもあるが、所属していた部活の今も気になるのは事実。言われた通りにするのは癪に障ったから、一人で来いと言われたけど氷皇を誘った。
「まさか回収するとは思わなかった」
「氷皇なに言ってるの?」
切原は初の大きな大会で、家族も見に来るから、といつも以上に張り切っていた。確かに先輩に交じってレギュラーとして大きな大会に出るのは初めてだったような気がする。
みんなの親と対面かぁ。あ、先輩も来てくれるかなー。
人混みを掻き分けて見慣れた黄色を探す。氷皇は電話して探してくれている。
「あー!!佐久間先輩!こっちッス!!」
声のする方を見ると、切原がこちらへ走ってきている。手を振って応えると、スピードを上げてやってきた。そして私の手を握りブンブンと振る。試合前に走って大丈夫なのか、とか思っていたが、どうやらテンションが振り切れているようだ。これは動かして落ち着かせた方が良いと思うくらいに。
「そうそう、さっき神戸(カミド)先輩も来てたんスよ」
「神戸先輩!?」
「他にも先輩方いましたよー。佐久間先輩が辞めたって言ったら心配してたッス」
「あー、どうしよ。先輩たちまだ居るかな?」
「マネージャー見たらすぐにどっか行っちまったんで、分かんねぇッス」
なんとなんと、神戸先輩が来ていたらしい。神戸先輩は私の初恋で永遠のアイドルな先輩だ。高校生になってまたカッコよくなってるんだろうなー、会いたかったなー。坂口さんにそれを阻まれるなんて最悪である。
切原に案内されて暫く歩けば、黄色い集団が見えた。切原に礼を言って一通り挨拶やら激励やらを済ませる。聞けば神戸先輩たちはに居るらしい。教えてくれたジャッカルにお礼を言って走り出した。
「神戸先輩ー!!!」
「佐久間!!」
ぎゅう!再会の抱擁。ぐしゃぐしゃと頭を撫でられながら、相変わらずの神戸先輩のカッコよさに惚れ惚れした。
*** ***
結果から言うと、当然というかなんというか優勝した。私はお昼は氷皇と先輩方と食べて、試合も途中で抜けてお茶したり、中々に充実した1日だったと思う。ちなみに見ろと五月蝿い切原の試合はバッチリ見て、感想も考えた。なんて良い先輩なんだろうか。
先輩方はもう帰るとのことだったので、お祝いと激励の伝言を預かって別れた。また遊ぼうと言って下さったので、今度遠慮せずに連絡しようと思う。
「優勝おめでとう」
そう言って近寄ると、笑顔を返してきた。常勝とか言ってるけど、やはり優勝は嬉しいようだ。三強は、少し違うみたいだけど。
「佐久間先輩どうでした!?」
「良かったよ。でも、1つ言うとしたら ―――」
私の言ったことに素直に頷く切原は文句なしに可愛い後輩だ。最近どうしたのだろうか。前よりも懐いてくる。
ところで、彼の家族はどこに居るんだろう。ほとんどの親は、顧問に挨拶して、子供に一言掛けているのに。
「赤也」
「あ!」
切原に声を掛けた女の人。美人だなー、と思っていたら、まさかの切原のお姉さんだった。えっ、ストレート…。
「はじめまして、佐久間麗です」
「切原茜です。よろしくね」
帰り道。氷皇と繋いでいる左手を強く握った。
右手には赤い跡が残っていた。
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