欠陥ヒロイン狂騒曲 | ナノ


18


神奈川県大会があるから見に来い、との連絡があった。なんでまた、という気持ちもあるが、所属していた部活の今も気になるのは事実。言われた通りにするのは癪に障ったから、一人で来いと言われたけど氷皇を誘った。


「まさか回収するとは思わなかった」

「氷皇なに言ってるの?」


切原は初の大きな大会で、家族も見に来るから、といつも以上に張り切っていた。確かに先輩に交じってレギュラーとして大きな大会に出るのは初めてだったような気がする。
みんなの親と対面かぁ。あ、先輩も来てくれるかなー。

人混みを掻き分けて見慣れた黄色を探す。氷皇は電話して探してくれている。


「あー!!佐久間先輩!こっちッス!!」


声のする方を見ると、切原がこちらへ走ってきている。手を振って応えると、スピードを上げてやってきた。そして私の手を握りブンブンと振る。試合前に走って大丈夫なのか、とか思っていたが、どうやらテンションが振り切れているようだ。これは動かして落ち着かせた方が良いと思うくらいに。


「そうそう、さっき神戸(カミド)先輩も来てたんスよ」

「神戸先輩!?」

「他にも先輩方いましたよー。佐久間先輩が辞めたって言ったら心配してたッス」

「あー、どうしよ。先輩たちまだ居るかな?」

「マネージャー見たらすぐにどっか行っちまったんで、分かんねぇッス」


なんとなんと、神戸先輩が来ていたらしい。神戸先輩は私の初恋で永遠のアイドルな先輩だ。高校生になってまたカッコよくなってるんだろうなー、会いたかったなー。坂口さんにそれを阻まれるなんて最悪である。

切原に案内されて暫く歩けば、黄色い集団が見えた。切原に礼を言って一通り挨拶やら激励やらを済ませる。聞けば神戸先輩たちはに居るらしい。教えてくれたジャッカルにお礼を言って走り出した。


「神戸先輩ー!!!」

「佐久間!!」


ぎゅう!再会の抱擁。ぐしゃぐしゃと頭を撫でられながら、相変わらずの神戸先輩のカッコよさに惚れ惚れした。



*** ***



結果から言うと、当然というかなんというか優勝した。私はお昼は氷皇と先輩方と食べて、試合も途中で抜けてお茶したり、中々に充実した1日だったと思う。ちなみに見ろと五月蝿い切原の試合はバッチリ見て、感想も考えた。なんて良い先輩なんだろうか。
先輩方はもう帰るとのことだったので、お祝いと激励の伝言を預かって別れた。また遊ぼうと言って下さったので、今度遠慮せずに連絡しようと思う。


「優勝おめでとう」


そう言って近寄ると、笑顔を返してきた。常勝とか言ってるけど、やはり優勝は嬉しいようだ。三強は、少し違うみたいだけど。


「佐久間先輩どうでした!?」

「良かったよ。でも、1つ言うとしたら ―――」


私の言ったことに素直に頷く切原は文句なしに可愛い後輩だ。最近どうしたのだろうか。前よりも懐いてくる。
ところで、彼の家族はどこに居るんだろう。ほとんどの親は、顧問に挨拶して、子供に一言掛けているのに。


「赤也」

「あ!」


切原に声を掛けた女の人。美人だなー、と思っていたら、まさかの切原のお姉さんだった。えっ、ストレート…。


「はじめまして、佐久間麗です」

「切原茜です。よろしくね」


帰り道。氷皇と繋いでいる左手を強く握った。
右手には赤い跡が残っていた。




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