欠陥ヒロイン狂騒曲 | ナノ


16



なんでここに居るんだっけ。右側に切原を、左側に仁王をくっつけながら麗は首を傾げた。
そうだ。仁王がやって来て、次に切原が駆け込んできて、拉致されたんだ。切原に腕を引かれ、弁当は仁王が持っていた。それから何故か3人で昼食を食べて、それから移動。そして現在に至る、と。

目の前には三強。幸村は困ったように笑っている。


「山田さんと坂口さんは?」

「他の奴らと食べてる。今日麗に来てもらった理由なんだけど…」


幸村は最後まで言葉を続けずに部誌を差し出した。じっ、と幸村を見てからそれを受けとる。ぱらりぱらりと読むと、懐かしいものがいくつも目に入る。新しい方へ一気に飛ばすと、そこは…


「これがどうかしたの?ちゃんと書いてあるじゃん」

「そうなんだ。俺達は何も思ってないんだけど…」

「二人ともずっと応援だとかなんだとかで、ここに書いてあるようなレギュラー以外の様子なんて見てないんスよ!」

「赤也がそう言って聞かなくて。ねぇ、麗はどう思う?」


腕を握る切原の力が増した。私には分からないことをなぜ聞くのだろう。部外者なのに。それに気づいたのか、柳は「どちらのマネージャーのことも知っているだろう?」と言った。
多分、彼らは私の言ったことを信じるんだろう。彼女たちが何と言おうと、真実を言おうと。もう一度部誌を捲る。そして、少し考えてから言葉を発した。


「正直山田さんはマネージャーとしてどうかと思う。皆は忘れるみたいだけど、入部当初は可笑しな行動が目立ってたし、その行動は明らかにレギュラーだけに対してだった。それはつまり、レギュラーに対して何らかの特別な思いがあるってことだと思う。それが何かは分からないけど、皆はそれを良く思わないんでしょ?レギュラーとその他で線引きして仕事をするマネージャーを求めているなら別だけど、違うでしょ?」


貴方達はいつも“テニス部”の為に戦ってきたはずだ。それが原因で嫌な思いもしてきたけど、それでも自分の為だけに戦うことはしなかった。後輩への指導は熱心だった。レギュラーとその他で差別したマネージャーも居たけど、その人達はことごとく辞めさせてきたはず。


「彼女が居ることで練習とか、他のとこでも。部活動に悪影響を及ぼすなら、考えた方が良いんじゃないかな」


私が偉そうに言えることじゃないんだけどね。



*** ***



後日、山田さんはマネージャーを辞めさせられたそうだ。氷皇がそう言っていた。
今日は珍しく氷皇がイライラしてる。私は大人しく髪を弄られることにした。


「本当、碌な奴が居やしない」

「え?」

「あぁ、動かないで。そろそろ出来るから」


髪の毛を引っ張られて変な声が出る。氷皇はそれに反応を返さず髪の毛を弄っている。周りの女の子達からどよめきが聞こえるから、高度な髪型でもやっているのか、手際が良いんだろう。私にはサッパリ分からない。

……あれ?なんで山田さんだけ辞めさせられたんだろ。坂口さんは残留?人数的に二人辞めさせるのはキツかったのかな。一応、坂口さんもよろしくはないことを言ったんだけどな。


「完成だ」


私の頭から手を離して満足げに頷く氷皇。女の子達は一頻り私の頭をまじまじ見たり、氷皇と話して離れていった。


「ねぇ氷皇。辞めさせられたのは山田さんだけなの?」

「あぁ、なんか仁王に告白したんだと。それも振っても諦めが悪くて粘着質。あいつら今まで部内恋愛でいろいろあっただろ?それで。元々お前に言われてから観察してたら変な点が見つかって辞めさせようとは思ってたらしい」

「ふーん。告白が決定打になったわけね」

「でも…」

「ん?」

「告白されたことを言ったのは仁王だ。実際に告白されたのかは分からないな。山田は告白してないって抗議したらしいけど」


仁王が嵌めたって訳か。仁王は山田さんをあんまり好く思ってなかったみたいだからありえるかもしれない。でも、まさかね。仁王は詐欺師と呼ばれているけど、んなことする人じゃないはずだ。

「氷皇の考えすぎだよ」

「そうかな」

「うん、そうだよ」



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