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「ね、マリンちゃん?」
明日、一緒にテニス部見に行こう?
そう麗が言ったのが昨日。坂口真鈴は麗に連れられてテニスコートへ来ていた。
周りを見渡した麗は小さく声を漏らして走り出した。坂口は訳もわからず着いていく。そしてたどり着いた先には、仁王と柳生が居た。
「仁王、柳生!」
「お、来んさったな」
「今日はよろしくお願いいたしますね」
「うん。で、こっちが話した子ね」
「それよか佐久間。幸村が呼んでたぜよ」
「本当?じゃあ行くわ。その子のことよろしくねー」
麗は幸村の待つコートへと向かった。そこには見慣れた芥子色のジャージと、水色と白色のジャージが。しかし麗は物怖じせずに、ずんずん目的の人に近づいていく。
それに気づいた知らないジャージの人物は器用に片方の眉だけを上げた。それに反応し、幸村も振り返る。
「麗」
「呼んでるって仁王に聞いたんだけど」
「うん。氷帝の世話をしてほしくて」
「氷帝?」
それは恐らく見慣れない学校のことだろう。麗は頷いてそちらを向いた。
向こうに見える集団が部員、そしてこの人が部長だろうか。眩い金色の髪の毛に、アイスブルーの瞳。立海のレギュラーも美男子揃いだが、この人は頭ひとつ飛び抜けているような気がする。
「………跡部景吾だ」
「佐久間、麗…です」
「あ、ちょっと跡部、麗を誑かさないでよ」
「あーん?」
「俺の大事な幼馴染みなんだからね!」
「あぁ、気にしなくて大丈夫だよ跡部君」
跡部を見つめて惚ける麗に幸村が後ろから抱きつくも、麗は慣れたようにその腕を解いた。お茶目な幼馴染みが気紛れに起こす我が儘の1種だと思っている。
連れない麗の態度に頬を膨らます幸村。跡部はそんな幸村に頬を引き攣らせつつも大人しく麗に従った。
とりあえず一通り説明して、気になっていたことを尋ねた。氷帝にはマネージャーが居ると聞いていたが今日来ていないのだ。跡部はその質問に、辞めさせた、とだけ答えた。
「ふーん。いろいろ不便があると思うけど、とりあえず、今日はお願いします。」
マネージャーのこと話したら皆怖い顔になってたなー。何かあったんだろうなー。マネージャーって問題起こす人しかならないのかなー。
麗はそんなことを考えながら部室へ向かった。途中で仁王と出くわし、坂口のことを聞くと、幸村に押し付けた、とのこと。麗推薦だと分かると山田の手伝いをするように言ってすぐにその場を離れたらしい。
「お前さんがあんな奴を推薦するとは思わんかったぜよ」
「…本気で推薦してるわけないでしょ」
「ほぉ、それはそれは」
「はいはい。仁王は練習試合に行きなよ」
「クク、俺たちのマネージャー様は怖くて敵わんぜよ」
仁王の言葉に麗は動きを止めた。仁王はそれを気にもとめずに去っていく。
久し振りに見た猫背な後ろ姿は、なんだか分からないモヤモヤとした感情を引き起こした。
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