欠陥ヒロイン狂騒曲 | ナノ


11



最近気付いたことがある。皆が丹波さんの話をしない。怪我をして入院してるのに、心配する言葉も聞こえない。彼女は確かに別のクラスだったけど、それでも私のクラスに友達は居たし、所謂人気者だった。心配しないなんておかしい。
それを氷皇に相談してみたものの、氷皇は目を細めて頭を撫でるだけだった。目を、細めた。笑っては、いなかった。


「氷皇?」

「やっぱり、お前は…」

「麗ちゃん!氷皇!」


何かを言いかけた氷皇の言葉を遮ったのは、坂口さんだった。頭から離れた手は緩く握られ、腕は坂口さんに絡められる。坂口さんは自慢気な顔で私を見た。
……氷皇を奪われるくらいなら、男子テニス部に放り込もうかな。そんな思いが頭をもたげた。



*** ***



「精くん」

「ん?どうかした?麗」

「マネージャーに推薦したい子がいるんだ。丹波さんみたいに凄くはないけど、少しくらいなら役に立つと思うよ」

「ありがとう。でも大丈夫。ちゃんと回ってるよ」

「ほんとに?」

「そりゃあ麗が居ないのは大きいけど…あ、責めてるわけじゃないよ」

「、そっか。分かった。余計な事してごめんね」

「麗がテニス部を思ってやってくれたことだろ?感謝はしても怒ったり、迷惑がったりはしないよ」

「はは、ありがと」


友達に呼ばれて駆けていく麗に、幸村は眉を顰めた。声が、表情が固かったのだ。何かあったのだろうか。それに、丹波とは誰だろう。
ふ、と思い返して原因を探ってみるが、逆に自分と彼女の接点が極端に減っていることに気がついた。席が隣であっても、前より会話は減ったし、そもそも部活での交流がなくなった。今まで、何だかんだでずっと傍に居た彼女が離れていくのは気に入らない。ずっと自分が庇護しなくてはならないと思っていたはずなのに、彼女はそこから抜け出して歩き始めた。まるで、俺は必要とされていな「精市」


「えっ、あ…山田さん」

「もう、どうかしたの?」

「いや、少し考え事をね」

「まぁ良いわ。今度の合同練習の話で聞きたいことがあるのよ」


幸村は笑顔で是と返した。もう考えていたことはどこかに消え去った。


「気に入らないな」


そんな二人を見て、麗は呟いた。口から零れ出た言葉に内心おどろくものの、ああ、こらが本心なのかと目を伏せた。
自分は彼の特別だった。彼らの特別だった。いつの間にか、そう思っていた。精くんの幼馴染みだからと、自分の扱いは他とは違った。それを勝手に、私は特別なのだと思い込んだ。ただ、それだけ。彼らの特別が私じゃなくなって、山田さんになって、悔しくて。憎くて。テニス部の為だと言いつつ、それは自分の為だったのか。
合同練習、使えるかな。自分の周りをうろちょろしている人物を思い出す。彼女も特別を望んでいる。彼女を放り込めば、特別はまた変わるのだろうか。

自分から逃げたくせに、棄てたくせに。今さら悲劇のヒロイン気取りか。自分への嘲笑。
ぐちゃぐちゃした思考回路じゃ何も考えられない。でもとりあえず、坂口を、合同練習に放り込んでみようかな。二人で潰しあってくれたら万々歳だから。

しかし、少し歩いて立ち止まる。
こんな私、氷皇はどう思うのかな。

ちらりと視界に入った坂口に、そんなことは吹き飛んだけれど。



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