05.5
話された事実に氷皇は意識を飛ばしたくなった。彼にとって予想外ではあったものの想定内であったはずのその事件は心底どうでも良いものであったし、事実、彼に実害はなかった。そう、彼には。大事な大事な駒に、彼女に被害が及んだのだ。
言葉にならない何かが喉を通り、意味を成さない音になる。
彼女を、のし上がらせるために、今まで囲っていたというのに。
気づいてしまった。気づかせてしまった。あぁ、何たることか。
「ダメだ」
泣いている彼女には聞こえないように呟く。
そうだ。ダメだ。落ち着け。俺が落ち着かないでどうする。彼女を落ち着かせるためには、俺が落ち着かなければ。
大丈夫。俺の目論見には気づいていない。気づいたのは上辺だけだ。いや、上辺にすら気づいていない。だから、何とでもごまかせる。いままで様々なモノを与えてきた。それは決して彼女の害には成らなかった。間違いはなかった。だから大丈夫。彼女は俺を信じる。
「大丈夫だよ」
「ひっ……ひ、う」
「大丈夫。俺が居る。守ってあげる」
今までそうしてきたように。然るべき時が来るまで。
「だから泣かないで麗」
その時まで、何も知らずに笑っていれば良い。何が起こるのか知らずに、幸せでいれば良いよ。
守ってあげるから……ね?
……、あぁそうだ。彼女にも会わないと。きっと彼女も気づいてる。不安がっているかもしれない。励まさないと。大丈夫だ、って。君は選ばれた者だって。
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