偶像恋愛



東堂は、難儀な奴だと思う。それが数少ないだろう友人である俺の感想だ。


「おはよう長谷ちゃん!!」

「おはよう!東堂くん!!」


好きな子が居ると言われたのは中学の頃だった。相手は所謂学校のアイドル的な存在で、可愛くて朗らかないい子だった。東堂はその子に見合う男になろうとして頑張った訳だ。そしたら、彼女が東堂のファンになってしまった。男としての枠から外れ、偶像になってしまった。俺はそれはマズいから、どうにかしろと言ったのだが、東堂は分かっていなかった。

結局、東堂は高校3年になっても告白出来ないで居る。それは、奴が完全に彼女の恋愛対象から外れてしまったということに気付いたからだった。

彼女は、テレビの向こう側の人間に本気の恋をするような、愚かな乙女ではなかった。模擬恋愛はしても、本気の恋はしない。偶像になってしまった東堂は、身近にあって会えるものの、テレビの向こう側の人間と同じカゴテリに入れられてしまったのだ。


「あ、あのね、東堂くん」

「なんだね?」

「これ、作ってきたの。良かったら部活の後に食べてね」

「おお!!ありがとう長谷ちゃん!ありがたく貰うとしよう」


可哀想な東堂。さっき聞いたんだけど、長谷ちゃん、好きな人が居るって話だぜ。
教えてやらないとダメだよなぁ。そんで妨害工作とかしないといけないんだろうなぁ。面倒だなぁ。でもずっとアイツの片想い見てきたから、実ってほしいとも思う。仕方ない、頑張るかな。


「なぁ、長谷」


東堂から突き刺すような視線を感じつつ、俺は彼女に声を掛けた。振り返って笑う長谷はそれは美人だ。普通なら、こんな質問しない。俺だって常識だとか良心だとか、そういうのはある。それに長谷を困らせるのは、本意ではない。


「好きな人居るって、本当?」


でも、こうでもしないと東堂は動けないヘタレ野郎だから。俺が悪者にでもなってやるしかないんだよ。

俺の質問に長谷は顔を赤く染めた。あぁ、居るのは本当なんだ。


「えっ、と」

「居るんだ?誰?」

「あの…その、えと……」


東堂からの視線が痛い。クラスの奴らからの視線も痛い。でもお前ら俺に彼女居ること知ってるでしょ。


「おい、そこらへんにしたらどうだ」

「東堂も気になるだろ?少しくらい良いじゃん。で、誰が好きなの?」


長谷へ向けた言葉には少しの棘を滲ませて詰め寄る。彼女はそれを敏感に感じ取って怯えていた。あぁ、申し訳ない。良心が痛む。
その時、彼女が視線を動かした。おや、と視線の先に目をやれば……


「え、もしかして――」

「や、やめて!!」


彼女が叫んだと同時に俺は吹っ飛ばされた。机を倒しながら床に倒れ込む。痛む頬と揺れる脳を叱咤しながら顔を上げたら、そこには怒り心頭の東堂が居た。


「彼女を泣かせることは許さん!!!!」


そして東堂は長谷の手を握って教室から出て行った。くそったれ。行動が遅いんだよ。


「何の騒ぎだ!?」


教室に駆け込んできた教師にため息をついた。

あーあ、東堂、幸せ絶頂でお前は帰ってくるんだろうけど、とりあえず一緒に反省文書こうぜ。
そんで、俺に報告したら何か奢れよ。柄にもなく悪役なんてやってやったんだから。初日の放課後デートだけは阻止させてもらうぜ。悪く思うなよ東堂。



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