彼の私の



坂を上りきった先の澄み渡った青空。ライバルとの勝負のその先に見た景色は、きっと貴方と貴方のライバルだけのもの。彼の唯一のライバルである東堂くんが羨ましい、妬ましい。決して同じ景色を見ることが出来ない私は、こんなことでさえ心が痛くなる。なんで私は…なんて、下らない問いを繰り返すのだ。


「裕介くん、お疲れさま」


東堂くんから解放された彼は、長い手足を揺らしながら私に近づいてきた。するり、と腕は私の首に回り、胸板が目の前に迫ってくる。応えるように背中に手を回して、ぽんぽんと叩いてやれば、いつだって彼は陥落する。ほら、甘えるように擦り寄ってきた。


「ごめん」

「うん?」

「勝って、そんで、お前に、鈴子……約束」


あぁもう可愛い人だと思う。いつかした小さな約束を気にして、こんなにも落ち込んでいる。その事実は私の胸をきゅうと締め上げた。
愛されていると思う。触れる場所全てから、いつだって優しさを、愛情を、感じることができる。私だって、同じくらいに愛しているけど。
だから、大切な人が悲しいのは嫌だ。さっきまで東堂くんに嫉妬していた私は、こんなにも簡単に彼に絆される。このポジションは、私だけのもの。


「裕介くんは、東堂くんと全力で戦ったんでしょう?悔いは無いんでしょう?」

「…ショ」

「なら、私は大丈夫」


あのときは私を忘れていたとしても、少しでも私のために走ってくれた。それだけで十分。
そう伝えても裕介くんは不満そうな顔をした。


「じゃあ、キスしてよ…」


私だけの為に、愛を囁いて。
一瞬だけでも良いから、私だけの貴方で居て。


「クハッ。そんな不安そうな顔をしなくても、俺はお前だけの物ッショ」


玉虫色に世界は染まる。



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