とある誰かの結婚式で



友人が結婚をするのだと連絡が来た。仲のよかった彼女がまさかあの人と結婚するなんて。


「あんなに泣いてたのに」


あんなに傷ついてたのに。
それでも追いかけるのね。



*** ***



「どう、かな?」

「綺麗だよ」


目の前で笑う彼女は本当に幸せそうだ。本当に良いのか、なんて聞こうとも思っていたけど、愚問のようだ。


「結婚式の前に話すことでもないんだけどさ、聞いてくれる?」


彼女の両親や兄弟が部屋から出て、私だけは引き留められた。アイツは来ないのかと聞いたら、一番最初に来ていたのだと言う。
手持ち無沙汰に部屋を見渡すと、アイツがプレゼントしたであろう彼女の私物がいくつか見つかった。アイツは貢ぐタイプだったらしい。
私が見ているのに気づいたのか、「いつもいつの間にか買ってて、返品するのも面倒だから受け取れって言われてさ。そんなのくれなくても好きなのに、不安になるみたい」と笑って言った。なんだ、ただの不器用か。
そして席を勧められ、座ったと同時に彼女が口を開いた。そんなの答えは決まってる。


「もちろんよ」

「たぶん、私が結婚するって連絡が行って、なんで結婚するのか、って思ったでしょ?」

「ええ、まぁ。だってあんなに辛い思いをしたのに」

「確かに辛かったよ。でも、知らないと思うけど」


そこで可能は言葉を切った。そして口許を緩ませて、いたずらっ子のように笑う。


「あの人、全部知ってて、私に気付かれないで解決しようとしてたんだって」

「でも、被害はあったじゃない」

「うん。家に飛んできて謝られた。先に言っておけば良かった、って。守りたかったんだ、って」


その言葉を聞いて、彼女が何を思ったのかは知らない。彼女はそれ以上語らなかったし、私も追求しようとは思わなかった。
アイツの知らない所で被害があって、何度も傷ついて、泣いていたのは確かだ。でも、そんなことをされた過去があっても、彼女はアイツの隣を歩くと決めた。
只でさえ容姿が整っているのに、努力家で、カリスマがあって、家が裕福で。そんなアイツに群がる女は沢山居た。その女の嫉妬の矢面に立たされて傷つけられて。私なら……


「きっと幸せにしてくれる。辛いことがあっても支えてくれる。今までそうだったの。だから、私も返したい」


背中を押されて部屋から出される。そろそろ私は式場に行かなければならない時間だ。


「それでもね、私。彼となら……景吾となら、不幸になっても構わない。そう思えたから、私は彼と結婚するの」


あぁ、もう。なんで同性なんだろう。私が男なら絶対嫁にしてたのに。


「不幸になるなんて許さない。鈴子を幸せにしなさい」


写真を撮る、元テニス部のメンバーと鈴子を眺めていた跡部に言った。
跡部は鼻で笑ってこう言った。


「俺は鈴子を幸せにする自信があったからプロポーズしたんだ。不幸になんかさせねぇよ」


全く、その言葉に納得してしまうんだから、跡部は嫌な奴だ。
鈴子が泣いたら許さないから、と釘をさして鈴子の方へ向かう。振り向いた鈴子は満面の笑みで。

やっぱり、愚問だったみたいだ。
跡部と 鈴子が付き合い出した頃、口から出た言葉は不必要だったのだ。


「跡部との未来は見えるの?」


笑顔で頷いたあの頃の彼女も、同じ質問に「当然だ」と答えたあの頃の跡部も。間違ってなどいなかったのだ。
たぶん、それを聞いた私も、間違っていなかった。だって聞いていなかったら二人を応援することも、支えることも、見守ることも出来なかっただろうから。



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