僕らは中学生
コート上のペテン師。その名を冠する男はどこまでも飄々としていて掴み所がない。会話をしても、するりするりとすり抜けて、自分の欲しい情報を手に入れることはすれど、自分の情報を与えることはない。
そんな評判を聞いた本人は、買い被りすぎだと苦笑した。
何を考えてるかなんて、そんなもの。中学3年生の脳内に何を求めているんだか。
プリッ、と言うのは面倒なとき。ピヨッ、と言うのは聞いてなかったとき。それくらいなものなのに。
「ほぅ……」
吐いた息が白く染まる。もう冬だ。高校はそのまま立海大付属の高校へ行くから受験勉強をするわけではないものの、内部進学者は高校の勉強が始まった。外部の高校へ行く者は勿論、受験勉強に大忙し。3年のクラスは進む方向によって分けられていたのだと知った。彼女も、外部クラスだった。
「あれ、仁王くん」
「おう、長谷は塾帰りか?」
「そう。仁王くんは高校の授業の先取りでしょう?お疲れ様」
駅の改札で会えたのは偶然か。最寄り駅は二人とも同じだと知っている。然り気無く隣をキープしながら話を続けた。
そっちのクラスはどうなのか。アイツは何してるのか。彼女は笑顔を絶やさず答えてくれた。
どうせ内部進学だろうと高を括っていたのが運のつき。まさか外部進学だとは思わなかった。
俺の頭の中なんて、どうすればつながりを保てるのか、それしかないのだ。あぁ、もう時間が無いというのに。
「それじゃあ、またね仁王くん」
明日は彼女の試験日だ。
後ろ姿を眺めながら少し考える。どうにか爪痕だけでも残したいなんて、格好が悪い。
家に着いてから電話帳を開いた。届けよ、思い。
「もしもし?」
「長谷?あんな、………」
ぐ、と言葉が詰まる。手が震えた。何故か、心臓はいつもと変わらずに鼓動を刻んでいる。
「俺はお前さんが笑うだけで幸せになれるような、単純な男なんじゃよ。」
「ふふ、なにそれ。」
どうしてだろう。好きな女子に電話してるっていうのに、心はどこまでも落ち着いている。
「そのまんま、じゃ。」
「私も。仁王くんと一緒に居るだけで、幸せ。」
「自惚れるから、やめんしゃい。」
「私はもう、自惚れてるよ?」
ゆったりと進む会話が心地いい。
あぁ、これが幸せなのか。
「……それ、自惚れじゃない」
「なら、仁王くんのそれも、自惚れじゃないよ」
コート上のペテン師。その名を冠する男はどこまでも飄々としていて掴み所がない。会話をしても、するりするりとすり抜けて、自分の欲しい情報を手に入れることはすれど、自分の情報を与えることはない。
そんな評判を聞いた本人は、買い被りすぎだと笑った。
何を考えてるかなんて、そんなもの。中学3年生の脳内に何を求めているんだか。
考えてるのは、テニスのこと。ご飯のこと。勉強のこと。
あと、彼女のこと。
[ 1/14 ][*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]