笑う、わらう、嗤う
「あー……やっぱりアイツら付き合ってんだ」
麗と猪崎が教室から出ていった後
男子に囲まれた転入生―――美波アイルの周りに集まっていた男子達はザワザワと話し始めた
「だよなぁ。佐久間のこと狙ってたのに」
「お前じゃ猪崎には勝てねぇよ」
「うっせ。分かってるって」
猪崎に腕を振り払われた美波アイルは顔を醜く歪めたが、一瞬にして不思議そうな顔を作り仁王と丸井に問い掛けた
「猪崎君って彼女いたんだねぇ〜。あの子ってだぁれ?」
「あいつは佐久間麗って奴だぜぃ。彼女だったのは知らねぇけど」
「俺らの部活のマネージャーじゃよ」
「マネージャー?二人って何部なの?」
「ククッ…何部だと思う?」
「え〜、マネージャーがいるってことは運動部でしょ?……テニス部とか?」
「当たりだぜぃ!!」
「ほぅ……よく分かったのぅ」
「えっへへ〜ん」
アイルは内心ほくそ笑んでいた
猪崎に彼女がいるかどうかだけを知ろうとしたのに、狙っているテニス部の話に移り変わっている
思い通りに話が進んで行くのだ
ここからマネージャーに持っていく……
1番重要な所だ
アイルはもう一度、ニヤリと笑った
彼女はまだ知らない
彼女を見て、あざ笑っている女がいるということを
まだ知らない
選ばれたのは、自分だけではないということを
ヒロインなど、お姫様など…存在しないということを
まだ…ヒロインが決まっていないということを
選ばれたのは、君達2人だけじゃあ無いんだよ
トリップしてきたのがヒロインとは限らないんだよ
誰かが……笑った