何処かの誰かの結婚式
何が好きかって、笑った顔が好きだった。なんて、そんなことはない。
あの時一緒に居てくれたから。ただ、それだけ。
じゃあ、あいつじゃなくても良かったかって言ったらそれは違う。
“あいつ”が“あの時”一緒に居たから好きになったんだ。
好きだったけど、あの頃はこういうのを望んでたわけじゃ無かったな。今は……
「はぁ…」
一人ため息を零す。それは呆れや疲れからの物ではなく、緊張から来るものだった。
ドクリドクリと心臓が鳴る。
鏡の中にスーツを着込んだ自分を見つけ、もう一度ため息。
「お待たせしました」
迎えに来た人に着いてアイツの下へ。
青い空が眩しかった。
*** ***
聖堂に入ってきた猪崎がバージンロードを歩く。途中で立ち止まり、深呼吸。
それが彼らしくなくて、小さく笑ってしまった。
「なんだよ、幸村」
「なんでもないよ。ふふ、幸せに」
最初は猪崎と麗が結婚するなんて思わなかった。言われた時はすごい驚いたけれど、少し時間が経てば二人が結婚するのは当然のように思えた。
中学からなんだかんだで交流があり、たまに会うくらいの俺達とは違って、二人はほぼずっと一緒に居たようなものだし。中学から二人の間には他人には入り込めない雰囲気があったから。
その後しばらくして入ってきた麗の手を麗のお父さんから受け取って、二人で神父さんの前へ歩いていく。
二人と目が会ったと感じたのは気のせいだろうか。
「はぁ…」
隣に座っていた仁王がため息をついた。
「二人とも幸せそうじゃの…」
「そうだね」
「あー、俺も相手探すかのぅ」
「紹介しようか?」
「頼む。幸村にも紹介しちゃろうか?」
「、そうだね。よろしく」
誓いのキスをして、微笑みあう二人。
その二人はこれ以上無いってくらいに幸せそうだった。
ある所に一人の少年と一人の少女がおりました。
二人の道は決して交わる事は無く、互いの存在を知らずに生きて行く筈でした。
しかし神様の悪戯か、少年は少女と出会ったのです。
少年は少女と知り合い、少女を知り、自分を知り、世界を知りました。
少女は少年と知り合い、自分を知り、少年を知り、世界を知りました。
交わる筈のない道は、いつしか一つの道となっていたのです。
これはここから遠い、何処かの世界の誰かのお話であります。