novel | ナノ



 すばらしい、あさがきた!きぼうのあさ!
 まあ暗い部屋の方が落ち着くんだけどな、と笑いながらおれは部屋の電気を消す。間接照明があるから真っ暗になることはない。
 間接照明のそばに座り込むメイに、にっこりと笑いかける。

「朝だぞ、メイ!起きるか?」
「……、あさ」
「そうそう!外がきらきらーってしてる!あぁあ今なら、いい曲書けそう!」

 ずるりと布団から這い出してきたメイは朝の日差しの爽やかさとは真逆の格好をしている。
 メイがあざだらけなのは、どうしてだっけ。まともな服を着ていないのは、どうしてだったっけ?ああもうぜんぶ、忘れたことにしよう。

「れお」

 掠れた声が、おれの名を呼ぶ。

「ここから、だして……」

 ――たすけを、もとめて、おれの名を呼んでいる。

「お風呂に入ろうな」
「あ、あ、違……」
「部屋から出てお散歩したいんだろ?じゃあお風呂に入って、リビングでゆっくりして……そうだな、庭で散歩もしよう!わははは、霊力が降ってきそうな一日だ!」

 ねえ、れお、ちがうの。まるで小鳥が歌うような、か細い声が聞こえた。きっと空耳だな。
 なぁ音楽ってどういうふうに生まれるか知ってる?五線譜の中に音符を敷き詰めて、閉じ込めて、やっと形になるんだ。そしてそれを、きれいなメロディーに変えるためには――その音符を檻から出してあげなきゃいけない。
 でも、そうすると、逃げていっちゃうんだよ。なあおまえも一回逃げたからわかるだろ?もう逃げないように乱暴したのに、忘れちゃった?おまえも忘れっぽいんだな、おれとおんなじだ。わはははは!

「なあ、メイ。おとなしくできるよな?」

 おれは音楽に囚われている。
 もうおれはおまえがいなきゃ、ラブソングのひとつもかけないんだよ。

 だからおれはこの檻から、おまえという音符を解き放つことはできないんだ。


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