novel | ナノ



「風真くんってどうしてめげないの?」
「は?何だって?」
「あ、顔こわ。マリィに見せたい」
「うるさい。せっかく教えてんだから課題やれ」

 ほらはやく、と言わんばかりに、風真くんはトントンと指で課題のプリントを叩く。
 いやあ、もう、やる気がないんだなあ……。

「お前も俺くらいめげないでほしいよ」
「いやぁ、課題にはめげちゃうよ」

 風真くんみたいに、いつもふわふわとマリィにかわされるのと同じように、私も弄ばれているのだ。攻略とは難しいね。
 難しい問題を極力優しく説明しようとしている風真くん。長い前髪の中からちらちらと覗く深紅の瞳は、私じゃなくてプリントに釘付けである。

「ていうか、なんで課題手伝ってくれるの?風真くん」
「お前があいつと仲良いから」
「なにゆえ?」
「お前の課題が終わってないと、あいつが心配するんだよ」

 あいつ――私の友達のマリィのことだ。
 マリィはギリギリ自分の課題は終わらせられるけど、教える余裕はないらしい。でも、私の成績の心配もしてくれる。いい子ではある。

「まあ、マリィもそんなに頭よくないからね」
「あいつはもう少し頑張れると思うんだけどな」
「いやぁ、どうかな?マリィ、いつも颯砂くんと走り込みしてるし……」
「また颯砂か……最近妙に仲良いんだよ、あいつら」

 課題から目を離した風真くんは、窓の外に目線をやった。グラウンドには、私たちの話の主役である二人が、楽しそうに並走している。
 彼らは仲が良い。ちょっと噂になるくらい。

「俺もいるのに、な……」

 ふと細められた目の中に、焦りや寂しさ、恋しさだったり、羨望だったり――いろいろなものが混じっていた気がした。
 風真くんの気持ちも、なんとなく知っている、だからなんとなくわかる。

「風真くんには私がいるって!マリィが取られたからって落ち込むな!」
「落ち込んでねーよ!ていうか、取られてもない」
「そうそう、その意気だよ。風真くんはめげないでね」
「……めげるかよ、そう簡単に」
「私は結構めげちゃってるからね」

 風真くんのこと、入学した時からずっと見てるから、なんとなくわかるよ。
 マリィがいくら他の男の子と仲良くしてても、絶対めげない風真くんの姿を見て、私はめげちゃったんだ。諦めちゃったんだ。
 風真くんは私のことなんか一生見てくれないだろうなってこと、わかっちゃったんだ。

「ほら、メイも諦めずにがんばれ」

 まずは問3からな、と悪戯っぽく微笑んだ風真くんは、私の心を諦めさせてくれないくらい激しく高鳴らせて、ときめかせる。
 でもさ、風真くんは優しいから。ゆっくり課題を進めたら、いつまでもここにいてくれるでしょ?
 握ったシャーペンの先は、もう解けている問題の答えを書くか書くまいか迷いながら、空中で踊っている。


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