SSS | ナノ
2019/02/12
そんなものなくても
「最近パン屋でクロワッサン見ると絶対に買っちゃうんですよね……」
「その度に僕の元へ持ってくるのはやめてほしいものだね」
「宗先輩、美味しそうに食べてくれるから、つい。というかそもそも私がクロワッサン買っちゃうのは宗先輩のせいですからね!?宗先輩がクロワッサン好きだから連想しちゃうし!そうだよねマドモアゼル!宗先輩が悪いよね!」
「何でもかんでもマドモアゼルに振るんじゃない」

 と言いつつ、宗先輩の傍らに寄り添うマドモアゼルは律儀に『ウフフ、そうね。ある意味、宗くんのせいかもしれないわね?』なんて笑ってくれた。優しい。マドモアゼル優しい。

「けれど、まあ、クロワッサンなら……悪くはない差し入れだと思っているよ」
「宗先輩がデレた」
「都合のいい解釈をするのはやめたまえ」

 いや今のは誰がどう見てもデレだった。しかし何度も言うと怒られるのでやめておこう。やめろって言われてもやめないでいると怒られるし、何なら追い出される。
 私が買ってきた貢ぎ物のクロワッサンを食べながら、宗先輩は溜息をついた。麗しい。絵画か。

「とは言え、こうも頻繁にやられては困るが」
「嬉しそうにしてるのに?」
「仕方なく食べているだけであって、嬉しそうにはしていないのだよ。……君は学生だし、別段裕福なわけでもない。こうした出費を重ねているのも関心しないね」

 裕福だったらいいというわけでもないけれど、と言葉を続けて、宗先輩はまた溜息をついた。
 まあ、たしかに。少ないお小遣いをやり繰りしながらクロワッサンを買うって微妙かもしれない。私は別にクロワッサン食べないし。
 けど、こうでもしないと、宗先輩と話す機会を作ることもできない。私はこれでもシャイな方なのだ。きっかけがないとお話なんてできない。というか多分宗先輩も話に付き合ってくれない。

「じゃあこれからはクロワッサン控えまーす」
「ああ。そうしたまえ」

 最近、せっかく仲良くなってきたと思ったんだけどなあ。クロワッサン攻撃もそう何回も使えなくなってしまった。
 宗先輩の好きなものかぁ。他には何があるだろう。あんずは宗先輩とよく裁縫の話をしている気がするし、私も裁縫のお勉強しようかな。仮にもプロデューサーだもんな。
 ぼんやりと宗先輩の手元を眺めていると、落ち着いた声に名前を呼ばれた。あ、珍しい、いつも小娘って呼ぶのに。

「君が何を考えているか、大体予測できるが……僕は『対価を支払え』とは言っていない。ここに来るだけなら、何も要らないよ」

 ……見抜かれていた。ぜんぶぜんぶ、お見通しだった。なんだか急に恥ずかしくなって、顔を隠すために俯いてみる。
 マドモアゼルが『あらあら、宗くんと同じくらい恥ずかしがり屋さんね!』なんて笑っていた。マドモアゼルの言うことが正しいなら、宗先輩も顔を赤くしているのだろう。宗先輩の表情を確認する余裕なんて、勿論なかったけど。
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