僕と君のはなし | ナノ

「広すぎなんだけど…」

 フロアを一通り見終わってから溜息を溢す。とりあえず4階はどの教室もほとんど移動教室で使うような教室ばかりだったのだけど、残念ながら家庭科室はなかった。

 休憩がてら、中庭が見える廊下の窓に軽く腰掛けつつ、視線を外へ向ける。


「はぁ…疲れた」


 目の前には中庭を囲むように校舎が3つ建っていて、その向こうには寮棟が見える。自分の足で歩いてみて、改めてこの学校のバカデカさを痛感した。だいたい、これでまだ今いる校舎の4階しか制覇していない。

「必要あんのかこの広さは。」

 だって今歩いてきただけでも、音楽室が3個あったよ?おかしくね。こんなかんじで何個も何個も同じ教室があったりするので非常にややこしい。1フロアもバカみたいに広いし、ほんとに嫌になる。


 ちらっと校内に設置された時計に目線を移せば、ちょうど授業が始まって30分くらいが経過したところだった。どうせならばと、全フロアを回るつもりだったけれど、すっかりそんな気も失せ、意気消沈。
 全く、自分のめんどくさがりな性格にも困ったものだけれど、今回ばかりはこの学校の広さにもたいがい問題があると思う。



 残り20分ほどで終わる授業に出る気なんてもんは、さらさらなくなっていて、ついでにHRもサボってさっさと部屋に帰ってしまおうと、階段に足をかけた時だった。


「おい、お前。こんなところで何してる」
「…げ」


 授業中のはずの、静まり返った廊下に響く怒気の含まれた低い声。バッと振り返れば全然見たことはないが、多分教師であろう人物がこちらを睨むように見ていた。

 最悪だ…

 そら授業中に歩いてたらこうなるわな。え、どうしよう、怒られたくないんだけど。不良とか思われんのもやだし…なんか言い訳…言い訳――


「あ、えっと。道に、迷いまして…」
「…てめぇ、ふざけてんのか」

 バカ正直に答えてみれば、返ってきたのは一段と低くなった声と、余計に増えた眉間のシワ。そうだよね、落ち着いて考えればそうなるよね。相手は俺が転校生だとかいう諸事情なんて知らなさそうだし。

 しかし、実際には別にふざけたわけではないし、情けない話だが道に迷っていたのは本当のことなだけに、思わずムッとする。

「ふざけてません。ほんとに道わかんないんです。」
「はん、もっとマシな言い訳は思いつかないもんかね」

 100%バカにしたような口調で、ゆっくりこちらに近づいてくる教師(もどき)。だらっと着崩したジャージのポケットに手を突っ込んで、威嚇するようなその姿は、なんていうか…肉食獣っぽい。


「まあ、言い訳は指導室でゆっくり聞いてやるよ。」


 そういって俺の肩に置かれた手を、迷うことなく振り払った。途端少しだけ緩んでいた空気が張り詰める。再び細められる目線に怯むことなく、睨み返す。


「俺、具合悪いんで。保健室行ってきます」
「…だぁから、つくならもっと出来た嘘つけっていってんだろーが。」


 再び伸ばされた手を避けて、俺は逃げ出した。
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