僕と君のはなし | ナノ

 どうしてこうなった。


「待てコラァアアアアア!!」
「ぎゃぁあああ!!」

 
 只今教師と思われる人物に追いかけられております。逃げてます。ええ逃げてます。逃げ出したのは、単に生徒指導なんてされたら後々めんどくさそうだなぁって思ったからっていう軽い理由だったのに、まさかあんな形相で追いかけてくるとは思ってもいなくて若干泣きそうなんですけど。

「ふっ、学生の頃は陸上で名を覇せていたこの俺から逃げられるとでも思ってんのかコラァ!!」
「…っ、んなこと聞いてないから!!」


 後ろで不敵な笑みを浮かべながら着々と距離を詰めてくる教師と、情けなくもそろそろギブアップな俺。

 だ、だめだ。直線では負ける!!!そう判断した俺は階段を一気に駆け降りる。なんとかここで距離を広げたいというベタな考えです。


「はぁっ…はぁ、なんてしつこいんだよっ!!」

 息も絶え絶えに振り返ると、先ほどよりも差は開いているが、また直線にもつれ込めば今度こそ終わりだ。
 なんか、隠れられそうな場所――!!

 とりあえず玄関口から外に飛び出して校舎周りをひた走る。その辺の茂みに隠れようとキョロキョロしていたのが行けなかった。


「っ!!うわ…っ」
「は、えっ!?」


 ドスンッ、と鈍い音が響いて体に衝撃。反動で後ろに転げる俺と、目の前の知らない人。全力で走ってたせいで、人にぶつかったらしい。よくよく見れば、教師ではなく今度は生徒だ。ぶつかった衝撃で吹っ飛んだのであろう相手のカバンからは中身が飛び出してしまっている。

「いった…なんやねん、もう…」
「ご、ごめんなさい!」

 尻餅を付いた状態で顔を顰めながらこちらに視線を移した生徒に、反射的に頭を下げる。理由がどうであれよく前を見ていなかった俺が悪い。明らかに。
 しかし、ゆっくり謝っている暇がないことを後ろから聞こえてきた足音が俺に知らせていた。

「あ、あの!俺、ちょっと急いでてっ!!今度!絶対なんかお詫びしますから…!!!」

 そう言って素早く立ち上がったそのまま再び走り出そうと、地面を蹴った――


 のだが…


「ちょい待ちや。」
「ぎゃっ!!」


 伸びてきた手に腕をがっしり掴まれて、勢い余った俺は再びズッコケた。何なんだと、相手の顔を見れば先ほどとは打って変わってニヤリと意地の悪い笑みが俺を捉える。

「なんやお前、追われてんかいな。はよ言いや」
「は?え、ちょっと…!ぎゃあっ!」

 何がなんだかわからない俺にそこまで言った彼は、俺の腕を掴んだままグイっと引っ張って立ち上がらせた後、そばに植えてあるやけに立派な植木に突き飛ばした。

 
 植木の枝が容赦なく俺の手やら首筋を引っかく。受身も取れずにひっくり返った俺は、そのまま木々に埋もれてしばし起き上がれず、痛みに悶える。
 おいおい、確かにぶつかったのは俺の責任だけど、いくら仕返しだからってこんな仕打ちはないんじゃないのか!一通り悶えたところで、文句の1つでも行ってやろうと体制を立て直した時だ。


「くっそ!あの野郎どこ行きやがった!!!」


 俺を追いかけてきていた教師の怒号が辺りに響き渡った。…忘れてた、俺追われている身でした。

「あ、加藤先生やないですか」

 植木の中で冷や汗をかきつつ様子を伺っていれば、今度はこの場にそぐわない間の抜けたような声。よくみれば、先ほどぶつかった生徒がにこやかに教師の前に立ちふさがっていた。


「あー?なんだ新崎じゃねえか。こんなとこで何してる、今は授業中だろうが。」
「いややなぁ、見てわかりませんか?部活ですよ、ぶ・か・つ」

 そう言って、先ほどぶつかった衝撃で散らばったカバンを拾い上げて中を見せる生徒。あの鬼教師の前で堂々と…しかも授業中なのに!あ、あの人何者だ…


「――ん?ああ、弓道か。そういや許可出たんだったな。」
「はい、おかげさまで」

 嫌そうに歪む教師とは正反対の表情で明るく受け答えする生徒。一体なんなんだよ!


「まあ、お前のことはどうでもいいんだよ。この辺に1年の生徒が走ってこなかったか?」

 本題キターーーー!!

「え、1年生?あー!そういえば、今それらしき生徒とぶつかりましたよ。」

 え!!?言っちゃうの?!もしかして俺ハメられた??!

「どこいった?!」
「あっちの旧校舎の方へ走っていきましたよ。全く最近の1年は先輩への礼儀ってもんを知らんみたいで。謝りもせんと行ってしまって――ってあれ?行ってしもた」



 関西弁らしき生徒の話を最後まで、聞かずに先ほどの教師は旧校舎の方へ猛ダッシュして、消えた。
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