家までの道のりは、あっという間で。それもそうだ、あの学校に入学を決めたのは家から近いという理由だけだったのだから。
バスで30分、揺られて爆睡していた俺を千秋が起こしてくれる。これも毎度お馴染みの光景だった。バス停から10分ほど歩けばあっという間に家につく。
「あ、ケーキでも買って帰る?」
「楓さんがもう用意してるんじゃないかな」
駅前を歩きながら、新しくできたのか見慣れないケーキ屋さんに目がとまり、千秋に声をかける。そんな俺に最もらしいことを言った千秋に、それもそうかと苦笑を溢す。あの人なんだかんだで本当に母性本能半端ないもんな。
「それより早く帰らないと。楓さんがハラハラしてまた迎えに来るよ」
「っぷ!あはは!確かに、前はすごかったもんなぁ」
思い出すのは去年の休暇。地元まで帰ってきたはいいが、千秋と2人、少し遊んで帰ろうかという話になり、ふらりと立ち寄ったゲームセンター。つい夢中になって長々と遊んでいたら、なかなか帰ってこない俺たちを心配した楓さんがエプロン姿のまま俺たちを迎えに来たことがあったのだ。あの時の泣きそうになりながらも怒る楓さんが忘れられない。
「碧、こっち――」
思い出し笑いをしながらフラフラと歩く俺の手を急に千秋が掴む。びっくりして跳ね上がりそうな俺をグイっと引っ張った千秋はそのまま、俺が今まで歩いていた車道側に体を滑り込ませた。
数秒呆けたあと、まるで女の子を気遣うような態度の千秋に思わず頬を膨らます。
「…いいよ、俺車道側歩く。」
「碧フラフラしてるから危なっかしい」
「俺だって男なんですけど!」
「ぷっ、知ってるよ」
「笑ってんなよ!馬鹿千秋!」
思わず怒鳴る俺を尻目に、涼しい顔をして歩く千秋。これ以上は何を言ってもダメだ、負ける。は〜、もういいや。聞こえるように溜息を吐いて大人しく内側を歩く。
「いつまでも子供扱いしないでよね」
「…そういうつもりはないんだけどな」
見えてきたマンションの入口に、相変わらずエプロンをつけた楓さんが立っていて俺たちは笑った。