「じゃあ、行ってきます」
「行ってらっしゃい気をつけてね!」


 帰省当日、パジャマ姿のまま部屋の玄関先まで俺を見送るユキに手を振って部屋をあとにする。荷造り、と言ったものの、自分の家に帰るのだ。必要なものは家に帰れば揃っているだろう。そう気づいて、結局必要最低限のものしか持ってこなかったため、俺の鞄は比較的軽い。

 しかしながら荷物とは逆に、俺の足取りは少し重い。いろんなことがありすぎてすっかり放置していた、一番大事なことを忘れていた。


「まいったなぁ」


 これから数週間、俺たちは同じ屋根の下で、休暇を過ごす。今まで一緒に育ってきた、あの家で。
 そういえば、楓さんや大樹さんは元気だろうか。ここ数ヶ月忙しかったのかまともに電話もしていない。楓さんはたまにメールをくれたけれど。

 まあ今から帰るのだから、そんなことはどうでもいいか。そう思いながら気づけば靴箱に到着。靴を履き替えて、正門に向かえば、すでにそこには千秋が待っていた。

「千秋」

 声をかければ、俺を見るなり緩む口元。その姿を見て、なんだか今まで考えていたいろいろな事が吹き飛んだ。
 
「碧」

 久しぶりに呼ばれる名前。堪えきれずに俺も顔が緩む。

 今はただ、忘れてしまおう。何も知らず、笑い合っていたあの頃に戻ろう。




 おうちへかえろう。

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