訳の分かっていないユキに軽く経緯を説明すれば、どうしてもっと早く報告しなかったのかと怒られた。その後、間に入ったユキが渡辺に何か話していたけど、結果として俺たちはめでたく仲直りを果たした。どうしてあんな暴挙に出たのかというのをちらっと聞いたら、すごく微妙な顔をされ、しかも理由は最後まで教えてくれなかった。
小首をかしげる俺を見てユキが溜息をつく。
「全く鈍いんだから…」
「む、俺のどこが鈍いのさ」
「そーゆーとこだよ。」
返された言葉にムッとする。鈍くはないぞ鈍くは。…多分。
そんな俺たちを見た渡辺は急に、
「今回のことでよくわかった。俺、これからは遠慮しないでガンガンいくから」
と、謎の言葉を吐いてそのまま意気揚々と寮へと続く階段へ消えていった。
「なんだったんだ?」
わけがわからない、という俺を見て再び溜息をつくユキ。
「全く罪な男だよ、お前はさ。」
ぼそりと呟かれた言葉は夏の訪れを告げる蝉の声にかき消された。
×
千秋から連絡が来たのは部屋についてすぐだった。
「もしもし」
『あ、碧。大樹さん達、仕事の休みが取れたから帰ってこいってさ。』
忙しくてなかなか休みが取れないと言っていた大樹さんから、連絡が来たらしい。今年は特に忙しいと聞いていたから、ゆっくりは会えないかと思っていたけど、大丈夫みたいだ。思わず頬が緩む。
「そっか、よかった。いつ帰る?」
『一応明後日くらいには出発しようと思っていたんだけど大丈夫そう?』
「うん、大丈夫。早速荷造り始めなきゃ」
『ふふ、そうだね、じゃあ明後日8時に正門に集合しようか』
「りょーかい」
電話を切って、ほっと息を吐く。去年もそうだったけど、家に帰るというだけなのに、久しぶりで少しドキドキする。あー、早く会いたいな。
早速荷造りでもしようか、というところで、リビングからユキの呼ぶ声。
「あおいー!ご飯できたよー!」
呼ばれてリビングに顔を出せば食卓に並べられた料理の数々。家庭的な煮物や味噌汁に、思わず喉が鳴る。俺の中ではもうすっかり母親ポジションだよお前ってやつは。
「美味しそう!」
「オイシイに決まってるでしょ!ほら早く座って座って!」
そう言って笑うユキに自然と笑みが溢れる。あー、なんだか日常だなぁ。