「ご、ごめん。」


 開口一番口から出た言葉がこれだった。どうして、俺が、謝っているのか。それは俺が一番自分自身に問いかけたい。そこは胸張って堂々としていろよ。むしろ睨んでやれよ。
 だがしかし、今俺の顔はきっと、情けないほど動揺を隠しきれていない。この絵面だけを見れば俺が悪いことをした側に見えるだろう。全く逆なのに。


「え、渡辺、顔超怖いんだけど。なになに、どーしたの?」

 1人何もしらないユキが俺と渡辺を交互に見て、目を丸くする。ユキの問いには答えず渡辺が俺をまっすぐ見下ろす。それを横目に見ながら、俺の頭の中は夏休みをいかに有意義に過ごすかということを必死に考えていた。まさに現実逃避だ。

 渡辺とギクシャクした感じで別れたあと、何度も渡辺から電話がかかってきていた。それを取らなかったのは、まだ少し怒っていたというのもあったけれど、とにかく喧嘩なんてしたのが久しぶりだったから、どうやって仲直りをしたらいいのかわからなかったからだ。
 まあ今回のことは、喧嘩というには一方的すぎたのかもしれないけれど。

「…なに、結構深刻な感じなの?」

 俺の知らない間に何があったしまじで。とボヤくユキを尻目に渡辺が徐に口を開いた。

「ごめんなさい」
「え」

 予想外の言葉に今度は俺が目を丸くする番だった。

「こないだのは…、俺も、悪かった。言い過ぎたっていうか…介入しすぎたっていうか…ほんとに。だから、無視とかほんとまじ勘弁してください。ヘコむ俺、超ヘコむから。」

 そう言って項垂れる渡辺を見て、俺とユキは顔を見合わせる。普段何があっても基本動じない彼が、見るからに眉を下げ落ち込んでいるではないか。

「「ぷっ」」

 思わず吹き出した俺とユキは決して悪くないと思う。
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