俺にとって怒涛の日々が目の前が通り過ぎ、あっという間に夏休みが近づいていた。


02.休息、急速、夏休み


「夏休み中は帰省するもよし、寮に残るもよしだが、出された課題はきっちりこなすこと。教室は施錠されてるが、図書館や施設は基本開放されてるからガンガン利用していいぞ。あとはちゃんと校則を守って生活すること。いいか、休みだからってハメ外し過ぎんなよー」

 夏休みの規則的なものを担任が話すのを聞き流しながら、俺はぼんやりと窓の外を眺めていた。机に置かれた携帯のバイブがブーブーと鳴り俺に着信を知らせるけど、今はなんだか取る気も起きない。だいたいまだHR中だし。

 ちらりと画面を見れば表示される渡辺の名前。そうしてまた俺は外を眺める。

 渡辺とはあれ以来顔を合わせてない。別にまだ怒ってるわけじゃないけど、あれだけほぼ一方的に怒ってしまって今さらどうしたらいいのかわからない、というのが本音でもある。

「――以上、では各々有意義な夏休みを送るよーに」

 どうやら担任の長い話も終わったようだ。ついでに渡辺からの着信も。というかお前も今HR中だったろうが。なに電話してきてんの。


「あーおい!部屋帰ろっ」

 俺の憂鬱な気分とは正反対のようで、明るく声をかけてきたのはユキだった。その元気羨ましい。

「相変わらず元気だねユキ」
「まあねっなんてったって夏休みだし!」

 夏休みといえばいっぱいいっぱいイベントがあるよね〜!楽しみ!そう言ってキャッキャする様は見ていて微笑ましい。少しだけ頬が緩む。

「そういえば碧は帰省するの?」
「うん、でも部活があるし多分1、2週間くらいかなあ。ユキは?」
「俺も帰るけど、多分お盆の3日くらいかなー。それ以外は大輔と…ムフフ」

 そこまで言ってどうやら本格的に脳内妄想に入りだしたユキを生温かい目でみながら、鞄に課題やら渡されたプリントやらを詰める。教科書なんかは粗方事前に持って帰っていたので、今日は鞄が軽い。

「これで最後かな。忘れ物なし、っと。ユキ、部屋帰るよー」
「はぁ〜い」

 クラスメイトと挨拶を交わしながら廊下に出れば、数人の生徒たちが夏休みの計画を立てている声が耳に入る。
 
 そうだよなぁ…夏休みだもんなぁ。なんかあるかなぁ、やりたいこと…うーん

 ぼんやり考えながら歩いていると、ドンっと人にぶつかった。なんてベタな…と思いながらも謝ろうと顔をあげる。

「すいませ……あ、」
「何で電話でないわけ?」


 運悪くぶつかった相手は渡辺だった。
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