「なんで?辞めて、どうすんの?」


 自然と声に力が入る。これは、心からの疑問だった。

 俺が今、この学校に通えているのは、紛れもなく大樹さんや楓さんのおかげだ。もしもあの時、彼らに引き取ってもらえなかったら自分1人だったならきっと、高校になんか行けなかった。
 ここに通う誰もが、誰かのおかげで今、生活出来ているはずだと。だからこそ、こんなしょうもないことで自主退学だなんて許せないと思ったのだ。

 俺の考えていることが伝わったのか、今度は内野くんが笑う番だった。

「今回のことも勿論ありますけど、それ以前に俺はもともと辞めようと思ってたんで。こう言ってしまえば、なおさら都合のいいやつになりますけど」

 どこか遠くを見つめる彼に思わず、食ってかかる。

「辞めようなんて、軽く言うもんじゃないと思う」
「…人にはそれぞれの理由があるんですよ先輩」
「それでも――」
「誰もが、先輩みたいに恵まれた家庭に生まれたわけじゃない」


 俺の声を遮ってそう言い切った彼の表情に、ハッと息を飲む。そこで初めて、自分の意見を押し付けていることに気づいた。
 彼のいう恵まれた環境という定義はわからない。俺自身、自分が恵まれた環境で育ってきたのかどうかと問われれば微妙なところなんだけど。

 みんなが自分と同じ考えなんて、そんなことあるはずない。そんなことわかっていたはずだったけど、彼の家庭事情を知らない以上はもう何も言えないと思った。





「何してんの?」

 
 重苦しい空気の中、不意に聞きなれた、しかし普段より随分と低い声が2人の間に響く。慌てて振り返れば、渡辺が仁王立ちでこちらを見ていた。いや、正しく言えば内野くんを、か。
 怒ってる、そう思った瞬間には渡辺はもう口を開いていた。


「よくもまあノコノコと顔を出せるよね。なに、厚かましくも許してもらいにきたの?」
「わ、渡辺…」

 吐き捨てられた言葉は誰が聞いてもわかるくらいに刺々しく、矛先を向けられた内野くんは隠すことなく顔を顰める。まさに敵意むき出し。

 とりあえずここで揉めたらややこしいので、仲裁に入ろうとしたのだが……
 

「お前もお前だ。なんでこんなやつと2人きりになってんの?俺、待ってろって言ったよな?」


 飛び火しました。


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