「…お久しぶりです」
「…あ、うん」

 こちらから会いに行くつもりだったから、勿論心構えも出来ていたはずだったのだけど。まさか向こうから出向いてくるとは思っていなくて、少し動揺している。
 対する内野くんは、生徒会にいた時と変わらない冷静さ、というか落ち着いているように見える。内心どう思っているのかは、わからないけど。

 お互い、一言言葉を交わして、沈黙。正直、何を喋っていいのかもわからないし、彼も口を開かない。なにこれ、気まずいんだけど。


「えーっと…」

 何か喋ろうと思うけど、なかなか言葉が出てこなくて目が泳ぐ。そんな俺を見て、聞こえるようにため息を吐き出す内野くん。

「――前から思ってたけど、先輩ってアホですよね」
「はぁ!?なんで?!」

 聞き捨てならない言葉を発した彼に素っ頓狂な声が出る。そんなこと言われる筋合いは欠片もないはずだ。むしろ俺が言ってもいいくらい…だよね?

 文句の一つでも言ってやろうと彼に視線を戻して、開きかけた口を思わず閉じた。深々と頭を下げた内野くんから出た言葉はなんとも弱々しい、彼らしくない一言だった。

「本当に、すみませんでした」


 まさか謝られるとは思っていなくて、目を丸くする俺。結局彼は、俺がもういいからといっても顔を上げなかった。



×




 道場の前では話しにくいので、内野くんと2人、中庭まで移動してきた。俺が少し話さないかと提案すれば、彼は小さく頷いた。

「なんで、責めないんですか」

 ぼそりと、小さな声でそう問いかける彼はずっと俯いたまま。そこにいつもの気の強い内野くんはいなくて、さっき会った直後に言われた言葉はきっと彼なりの、精一杯の強がりだったのだろうなと、そう思った。

  
「今、俺が内野くんを責めて、何かいいことある?」

 途中で買った缶コーヒーを手渡しながらそう言えば、少しばかり顔を歪めてから彼は素直にそれを受け取った。

「そんなの、知りませんけど。少なくとも気は晴れるんじゃないんですか」
「どうだろ、俺そういうのめんどくさくってダメなんだよね。」
「俺としては、先輩が退学しろって言って追い出してくれれば、嬉しいんですけど」

 内野くんの皮肉たっぷりな言葉に少しだけ笑って返す。内野くんはかなり不満そうだ。

「じゃあ尚更、退学なんて許せないなあ」
「なんでですか」
「だって、どうして俺が君の喜ぶことをしなきゃなんないの?」
「……森広のところにも、行ったらしいですね」
「うん、ついさっきね」
「アイツ、退学やめるって?」
「多分ね。俺にこんなことをしておいて辞めるだなんて都合良すぎると思わない?」

 そう言ってイタズラっぽく笑えば、内野くんは眉を寄せて視線を逸らす。きっと彼も都合がいいことはわかっているのだろう。図星を突かれた、という感じか。それとも、こう言われることをわかっていたのか。
 一呼吸おいてから内野くんはまっすぐに俺を見た。

「…さっき会長に会ってきました」
「――そう」
「そこでも、同じようなことを言われました。」
「…」
「俺は、本当に申し訳ないことをしたって、思ってます。反省も、自分なりにしているつもりです。学校を辞めるという選択肢も、逃げる手段だって、思います。」

 中庭に設営されている街頭がぼんやりと俺たちを照らす。相手の表情まではわからない。

「でも、俺はこの決断を変えるつもりはありません。誰にどう思われてもいい。勿論先輩や、会長にも。」


 生ぬるい風が、吹き抜けた気がした。

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