ありがたいかな、みっちりと先輩のご指導を仰いで、2時間。漸く終わりを迎えた頃には窓の外はすっかり薄暗くなっていた。


「よっしゃ、今日はこの辺にしとこか〜」


 先輩の一言で、張り詰めていた空気が緩む。最初はあんなにグチグチと言い争っていたけど、気づけばかなり集中していたようで、思わずホッとため息を零す。そんな俺を見て先輩は「力みすぎや」と笑った。

 それにしても久しぶりに味わう弓矢の感触に頬が緩む。やっぱり弓道は楽しい。改めて好きだと再確認させられつつ、若干困ったことが俺の中に浮上する。
 
「…腕が鈍ってる…かも」

 そう、今日の練習で一発もまともなのが打てなかったのだ。以前からそこまでうまかったわけではない。しかし、ここまで命中率が悪かった覚えはない。
 言葉にしてみると、ますます不安が俺を襲う。当然だ、何日も練習していなかったのだから。そう言い聞かせるものの、流石にショック。


「ほらみろ、俺が言った通りだ。」
「…うるさいな」

 そんな俺を見て、はん、と鼻で笑う渡辺をきつく睨みつければ横から新崎先輩が苦笑を一つ。

「まあ、しゃあないな」


 先輩、結構落ち込みます。

×


「お前、メシどうすんの?」
「どうしようかな、ユキがいるなら部屋で食べるけど…聞いてみなきゃ」
「ふーん、まあどっちにしろ今日は俺もお邪魔しようかな」
「そ?わかった、ユキにメールしてみるわ」

 胴着から着替えている渡辺を尻目に俺はそのままの格好で携帯に手を伸ばした。汗だくのまま制服に着替えるのは気が引けるし、どうせこの胴着は洗濯して返さないといけない。めんどくさいし、そのまま帰ることにしたのだ。
 
 夕食はいつもユキが作ってくれるのだけど、渡辺も来るとなると量が増える。その旨を連絡しようと携帯を開くと、メールが1件。ユキだった。





from:ユキ
title:
――――――――

今日は大輔のところに行ってくるので
帰り遅くなります!
もしかしたらお泊りしちゃうかも〜♪
なので、ご飯&戸締りよろしく!
じゃね〜

―END―
――――――――




 …どうやらユキは今日不在らしい。


「全く、バカップル具合もほどほどにしてほしいよな」

 そうため息を吐いて、携帯をしまう。思えばユキたちはいつから付き合っているんだろうか。俺とユキが出会ったときには既に一緒にいた気がするけれど、思い返せばユキのそういう話は聞いたことがないかもしれない。

 いつも俺ばっかりだし、今度聞いてみよう。

 人の恋の話にはガツガツ食いついてくるくせに、自分の話はまるでしてこない彼。どうやって問い詰めてやろうかと、ニヤニヤしていたら後ろから渡辺に叩かれた。痛い!

「なんだよ!」
「いや、ニヤニヤしてキモイなと思って。」
「はあ?」

 飄々としている渡辺をきつく睨みつけるけど、華麗にスルーされた。何なの、今日はヤケに突っかかってくるよなコイツ。

「で?ユキはなんて?」
「…大輔先輩とデートだって」
「――じゃあ食堂決定だな。」


 行くぞ、なんて声をかけられ慌てて渡辺の後をついて部室を出る。そういえば新崎先輩はまだ練習しているのだろうか。鍵、開けといて大丈夫かな。
 声だけかけておこうと、再び道場の扉に手を伸ばした時だ。ちょうどいいタイミングで中から先輩が顔をだした。

「なんや碧、忘れもんか?」
「あ、いや。もう俺ら帰るから声かけとこうかと思って」

 そう言うと先輩は「そっか、ありがとさん」と言ってニッと笑った。そうして俺の背後を覗き込んだかと思うと不意に渡辺の名前を呼ぶ。

「俺っすか?」
「そう、ちょっと用あるから。碧、悪いなぁちょっと渡辺借りるで。」
「あ、はい。」

 すぐ終わるから、とそのまま先輩は渡辺に手招きして道場の中へ消えていった。呼ばれた渡辺も小首をかしげながら先輩の後に続く。横を通る時にしっかり「そこで待ってろよ」と念を押されて思わず苦笑する。そんなに信用ないのか俺は。

 待ちぼうけを喰らうハメになった俺は、再び携帯を開いた。結局内野君には会えなかったなぁ。そのことを一応千秋に報告しておこうと思ったのだ。
 電話帳から千秋の名前を探していた、ちょうどその時

「星山先輩」

 かけられた声に、反射的に体が強張った。顔を上げれば、今まさに頭の中に思い浮かんでいた張本人が、目の前に――




「――内野くん」

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