ずるずると連れてこられたのは案の定というか、お決まりの部室だった。ガンッと勢いよく開け放されたドアに、練習していた生徒が一斉にこちらを振り向く。弓道部はそんなに部員が多いわけではないけれど、練習は真面目にこなす生徒がほとんどで、今日だってほぼ全員が熱心に練習をしていた。

 そんな中、渡辺に引きずられる俺を何事かと目を白黒させて見つめる部員たち。中には後輩もいて普通に恥ずかしい。こちらを見て、挨拶してくれる後輩たちに曖昧に笑って返すけれど、俺を引きずったままの渡辺はそのまま隣の倉庫に直行。

 いつもは部室の真ん中で説教されるのに…。なんだなんだと1人慌てつつ、不安の眼差しで渡辺を見るけれど相変わらずの無表情というか、いつもと変わらない顔で見下ろされて、それが逆に怖い。

「わ、たなべ?」
「碧」

 冷たい声に、不安感は増す一方で。さすがの渡辺も堪忍袋の緒が切れたか…?
『口で言ってもわからないなら、体に教えるしかないな。』という何かのドラマで聞いたようなセリフが頭に浮かんでぞっとした。ああああなんてこった。このセリフを吐かれた相手はその後たいがい殺られちゃうんだよ。うん、サスペンスとか昼ドラ大好きなんだよ、俺。

 そんな妄想行き過ぎた俺の心情なんて伝わることもなく。オドオドしている俺を尻目に渡辺はニコッと笑うとついに口を開いた。

「はい、そこに正座」

 あ、どうやらいつも通りのお説教のようです。


×



 今日の説教は凄まじかった。凄まじい勢いで怒られた。理由はどうであれ、部活サボりすぎだってことから始まって、生徒会のこと、この間の体育祭のこと。とにかく隅から隅まで、俺の落ち度を指摘されて正直すごく…、すごくダメージが酷い。精神的に。
 特に体育祭のことについては、隙がありすぎだとか、簡単に他人を信用するなとか、もっと自覚を持てとか――

「あと、いろんなとこに首突っ込みすぎ。いい加減引っ込めろ」
「…それ、渡辺に関係なくない?」
「何か言った?」
「ごめんなさい」

 だって、だって!と反論したくなる箇所はたくさんあるんだけれど、どれも的を得ている指摘なだけにまともに言い返せず、ぼそっと呟いた言葉も、渡辺の威圧感に気圧されて即効で取り消す。もういやだ。泣きたい

「とにかく、今後一切生徒会に関わんな。いいな」
「いや、うん。わかってるけど…でも」
「“でも”は聞かない。お前、生徒会手伝うってなった時もエライ事になったのに、忘れたの?」
「忘れてません」
「なら、わかるな?これから放課後迎えに行くから」
「いやいやいや、ちょっと待ってよ渡辺」

 なんだか、今日のお説教はいつもより長い上にいつもよりねちっこい。しかもなかなか大袈裟だ。放課後、迎えに来るとか――

「そこまでしてもらわなくても、これからはちゃんと来るから」
「じゃあもう内野と森広のことも関わるな。」
「いや、それとこれとは話がちが」
「違わない」
「違うよ」
「違わない」
「違う!」

 一方的すぎる渡辺にさすがに反論するけれど、それもあっさり跳ね返されて、ムッと顔が歪む。それでもムキになってしまう俺がダメなのか。これじゃ子供の喧嘩だ。

「とにかく!明日からは毎日顔を出すし、生徒会も手伝いは終わったはずだし!それでいいでしょ?」
「あの2人にも関わるな」
「あー、はいはい」
「あと、生徒会長にも」
「はっ?」

 渡辺の言いたいことはよくわかったし、俺もこれ以上言われたらきついし(精神的な意味で)、部活の時間にも大幅に食い込んでいるわけで。俺たちが倉庫に入っていったのを見ていた部員たちはきっと何事かと思っているだろう。さっさと聞き流して、終わりにしてもらおうと、適当に返事を返していた矢先だ。
 渡辺が最後に言った一言が引っかかりすぎて、残念ながら終わらせることができなかった。

「会長って、まさかお前。千秋のこと言ってんの?」
「そうだよ。」

 まさかの発言に、開いた口が塞がらない。なんでここで千秋が出てくるわけ。

「いや、なんで千秋?」
「結局元を辿ればあの人が原因だろ」
「んなわけないじゃん。何言ってんだよ、」
「じゃあ思い返してみ?俺が今まで指摘した中で、あの人が関わってない事柄が1つでもあったか?」
「…」

 …確かに。思い返せば千秋の兄弟じゃない宣言から始まって、部活に来れなかったのも生徒会の手伝いに行ってたからだし、結局そこから今回の事件につながるわけで。
 だからって千秋を悪く言われるのは気に食わない。流石にこれは逆に怒ってもいいんじゃないかと、渡辺を睨む。向こうも全然引く気はないようで、顔色一つ変えない。

「そうだけど…でも!だからって――」

 そこまで言いかけて、不意に倉庫の扉がガラッと音を立てて開く。それに合わせて渡辺も俺もバッと扉の方に目を向けた。そこには見間違えるわけもない人物がまさに鬼のような形相で仁王立ちしていた。


「お前ら、ええ加減にせえ!部活中や!」


 本日2回目、怒られました。

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