ここの食堂は正直ピンキリだ。言葉の通り、安いものから高級料理まで、なんでもある。たかだか全寮制の男子校になぜそこまでのメニューを揃える必要があるのか、それは未だに謎であるが、高級料理を普通に食べている学生がいるのも事実である。

 要するに、ここには庶民から金持ちまで色んな環境で育ってきた人が生活しているというわけで。

 ええっと、なんか話が逸れたな。何の話だっけ?


「3か月食堂の飯奢りって…」
「あ、勿論Aランチね。」
「はぁ!?」


 飛び出るかと思うほど目を見開く森広がおかしくてつい笑ってしまう。ちなみにAランチと言うのは先ほど説明した高級料理の部類に入るランチセットであり、言わずもがな料金はお高い。

 放心状態な森広をよそに、出されたコーヒーを全て飲み干して席を立つ。長居している場合ではない、次に行かなくては。

「ご馳走様」
「…あいつのとこにも行くつもり?」


 俺がさっさとお暇する準備を進めていれば、おずおずと森広が尋ねてくる。勿論そのつもりなので、軽く頷けば小さくため息をつかれた。

「どうせ、お節介だって言いたいんだろ」
「いや、まあ…うん。」


 後ろから聞こえてくる言葉を聞き流しながら、玄関へ足を運ぶ。後ろからついてくる森広からは酷く心配げな気配がヒシヒシと伝わってくる。
 それだけ内野くんのことを大切に想っているというのはわかった。けれど、それにはわざと気付かないフリをした。


「じゃあ俺行くね。また学校で」
「…あのさ、」
「なに?」
「こんなこと、ほっしーに頼むのおかしいんだけど…。あんま、責めないでやって」
「うん、わかってるよ」

 玄関を開けて軽く手を上げる俺を余所に、バツが悪そうに視線を外す森広。それを見て思わず首を傾げたけれど、告げられた言葉に苦笑が零れた。
 内野くん、愛されてるなぁ。

 そうして今度こそ、踵を返す。ひとつ肩の荷が下りたような気分だ。まだ、全ては解決していないけれど。


「あと…あの時は、ほんとごめん。」


 廊下を歩き出した俺の耳に、掠れた小さな声が入ってきて思わず目を丸くする。振り返ってみたけど、そこにはもう森広の姿はなかった。驚きすぎて、数秒立ち止まってしまったけれど再び足を動かす。心に少しだけ空いた隙間が、少しだけ埋まったような気持ちだった。嬉しくて、緩んでいる頬を自覚する。
 謝られて当然のことだって、きっと皆はそういうだろうけれど、それでも嬉しいのはやっぱり俺がお人よしだからかもしれない。





 廊下の窓からは雲一つない空が、オレンジ色に染まり1日の終わりを告げようとしていた。


 俺の中のモヤモヤ全てを今日、清算するつもりだった。




 とりあえず目指すは、内野君の部屋。

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テーマ「人外ファンタジー」
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