35.ラセット




 俺が言った言葉に、ハッと我に返る内野くん。ちょっと、今完全に森広に気取られて本来の目的忘れてたよね彼。


「と、とにかく!俺が言いたいのは、これ以上千秋先輩に近づかないでほしいってことです。…でも先輩は、千秋先輩から離れる気はないってことでいいんですよね?」


 少し慌てたように、でも、俺を真っ直ぐ見る目の前の彼は、きっと好きな人に必死なんだろうなぁと、ぼんやり思った。
 そんなにも人を好きになったことがないから、内野くんの気持ちがわかるわけではないけれど。

 でも勿論、俺にも譲れないものがあるわけで。ずるずると引っ張り続けてここまできてしまったけれど、千秋との状況を何とかしたいと思う気持ちは変わってない。内野くんが言うように、本当に千秋が迷惑だと思っているとしても、それはアイツの口から直接聞かなきゃ信じられない。




「離れる気なんてないよ。」

「っ、何でですか?迷惑だって、言ってるんですよ」

「それは内野くんからじゃなくて、千秋本人から直接聞かないと納得できない。」



 こんな窮地に立たされて漸く自分がとるべきだった行動を理解した。もっと早くに、意地でも千秋と話をしていたら、きっとこんなことにはならなかっただろうな。
 だいたい俺達2人の問題が、ここまで他人を巻き込んで拡大してる時点でおかしいんだけど。



「だから、ごめんね。俺、他人のために自分を犠牲にするほど出来た人間じゃないからさ。内野くんのお願いは聞けないや。」



 俺は自分のために動くよ。そう言うと、内野くんはあからさまに顔を歪めて、森広に視線を送る。


 というか、そもそも俺悪くないから謝る必要なかったような…




「…亜月、連絡」

「はいはーい。もう連絡しましたよっと」



「――連絡?」



 不審な会話に今度は俺が顔を歪める。すると数分経たないうちに廊下を何人かが歩く音がして教室の扉から知らない生徒が3人入ってきた。おいおい、ついにリンチか。




「先輩、今の自分の状況、わかります?」

「…まずい状況だってことぐらいはわかるよ。」



 そりゃ5対1はないよ。無理だよ。入ってきた3人もなかなか身体鍛えてそーな感じだし。あ、唯一内野君には勝てそうだけど。



「これでも意思は変わりません?」

「変わりません。」

「…なら、先輩の弱みを握らせてもらいます。」



 最終確認とでも言いたげな内野くんに、変わらず俺が首を横に振れば、彼も彼で覚悟を決めたように一息ついて、後ろの3人に何かを合図。そうしてそのまま教室から出て行く。森広も、ニコニコしながら手を振る。


 え、まさかの放置プレイなの。



「じゃ、俺達は退散しま〜す。ごめんねほっしー。――俺も自分のために動いてるからさ。」




 恨まないでね〜、という軽い声とともに教室の扉が閉まり、次いでガチャっと鍵の閉まる音。

 いやいやいや、普通に恨むわ!森広あの野郎!あとで覚えてろよ…



「…まあこっから出れたらの話だけど」



 明らかにこれから起こることが目に見えてしまった俺は思わず頭を抑えた。

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