グランドからは生徒達の悲鳴ともとれる歓声が聞こえてくる。今は何の競技をやってるんだろう。
30.ライラック
旧校舎に入ったのはいいが、勿論中には誰もおらず俺は早速暇を持て余していた。
外とは対照的なほど中は静か。森広はサボれる場所がいいといっていたが、正直することが何もないというのは、逆に退屈だ。
「暇だなー」
思わず、警備する必要あるのかって思ってしまうけれど、残念なことに、この学校では強姦まがいな事件が起きたりするのだ。まあそんなのは極稀にだけれど、正直犯人が同じ学園の生徒だと思うとゾッとする。
原因としては、この学校の、美形を贔屓目にしてしまいがちな所にあったりする。
なので、こういう行事中は人気のないところだったりを見回りするのは最早必然。勿論それはわかってはいるんだけど。
「だいたい千秋はいつ来るんだよ」
腕時計を見れば集合時間はとっくに過ぎている。あの千秋が時間に遅れるなんて…。やはり生徒会長だしやることはたくさんあるから大変なのはわかるんだけど、遅れてくるなら連絡くらい寄越すと思うんだけどなあ。
…俺だから連絡寄越さないとか…
ぼんやりと携帯を見つめながら無駄に長い廊下を1人、歩いている時だった。
ガタ―ッ
「っ!?」
思いがけない物音に大袈裟に身体が反応する。誰もいないと思っていたのでかなりビックリした。心臓が無駄にバクバクしている。
こんなところに誰かいるのか?それとも単なる風の音――?
とにかく音の発生源を掴もうと、耳を澄ます。
ガタッ、ガタ―
どうやら空耳ではないらしい。今、俺がいる廊下の突き当たりの教室。音はそこから聞こえてくるようだ。
やっぱり、誰かいるのか?そもそも何の音…
思わず、万が一のことが頭を過る。もし、本当に強姦みたいなことがあったら俺なんかが1人で行って止められるのか――
知らず知らずのうちに携帯を握る手に力が入る。
果たしてここで俺が取るべき正しい行動はどれなんだろう。
「よし」
一息ついて、俺は物音がした扉の前まで来た。
旧校舎の教室の窓は曇りガラスになっていて、外からは中の様子がわからない。念のため、千秋に連絡しようかとも思ったのだが
『当日は忙しいから連絡つかないって――』
という内野君の言葉を思い出し、やめた。
何にせよ、とりあえず警備をしている以上、何か不審な点があるなら確認しなきゃダメなわけで。不本意ながらも俺は今生徒会補佐なわけだし。
無理矢理やらされてると言ってしまえばその通りなんだけれど、本当にまずい事が起きていたらシャレにならない。
音の発生源を確かめるために、目の前の扉に手をかけた。