26.テラコッタ
「木崎波瑠です。さっきはすいませんでした。これからよろしくお願いします」
「あ、いやこちらこそ。星山碧です。よろしく」
結局、先輩に言われるがまま彼が放った矢は見事に大きく的を外れて壁に突き刺さった。
それを見た先輩は『ほんまに撃つと思わんかった』と、げらげら笑って勝手に木崎の入部を決めた。
あとで本人に話を聞いてみれば、特に弓道部に入部したかったわけではなかったらしく、浅倉の勧めで見学に来ただけらしかった。まあ、学校が終わって何もないのは暇だし、結局何だかんだで入部が決まったのでお互い自己紹介。
第一印象はあまりよくなかったけど、睨まれたのはどうやら俺がピアスを凝視していたので、また何か言われると思ったかららしい。
話してみれば普通に礼儀正しいいい子だった。なのに、どうやらそのピアスのせいで彼はクラスに溶け込めないらしい。
「外せばいいんじゃないの?」
「嫌ですよ」
「なんで。」
「外したら負けた感じするじゃないですか。」
壁に刺さった矢を引っこ抜いて、穴を埋めながらそう言った彼の声色は真剣そのもので、俺に負けず劣らずこの子もたいがい頑固らしかった。
「あ!碧先輩も、このあと一緒に食堂行きませんか?木崎の新歓ってことで!」
「あー・・・うーん、どうしよう」
そんな木崎を眺めていれば、浅倉が爽やかに食堂に誘ってきた。折角だし一緒に行こうかとも思ったが、よく考えればこないだ新聞のネタになったばかりだし、食堂なんか行ったら注目の的になりそうだなぁ。
そうなると浅倉にも申し訳ないし、転校してきたばかりですでによろしくない噂がたってるらしい木崎と一緒にいたのでは、さらに彼のイメージがダウンしないだろうか。
俺が渋っていれば、木崎が少し申し訳なさげな顔をして俺を見た。
「やっぱ俺とじゃ、行きにくいですよね。すいません」
「え、あ、違う違う!何て言うか、俺もちょっと今まずい状況で・・・」
勘違いして謝る木崎に、慌てて弁解を挟む。しかしうまく説明できなくてあーだのうーだの言っていれば、今度は倉庫から新しい弓道のセットを引っ張り出してきた先輩が一言。
「なんやの皆で難しい顔して。そんなもんわざわざ食堂なんか行かんでも俺の部屋来たらええやん。うまいもん作ったるわ。」
全くいい先輩を持ったものだ。