25.橙色
結局あのまま、あそこにいても需要は無さそうだったので、帰ることにした俺は久しぶりに部室に足を運んでいた。今日は渡辺も委員の手伝いらしく、声をかけてみたけど『無理』とあっさり断られてしまった。
明日が体育祭ということでほとんどの部活が休み。それはもちろん弓道部も例外ではない。
しかし部室を開けるために職員室を覗いてみれば鍵がない。
もしかしたら新崎先輩がいるのかも。
とりあえず更衣室まで来てみればやはり部屋の鍵は開いており、中には先輩の荷物が置いてあった。
さすが――
俺も胴着に着替え、久しぶりに弓を持つ。今日は先輩に厳しい指導をお願いしようかなぁ――なんて思いながら道場の扉を開けて、動きを止めた。
先輩だけだと勝手に思い込んで入ったのに、中には見知らぬ生徒が2人。そうして肝心の先輩がいない。
「・・・あれ?」
すると俺に気づいたらしい2人がこちらを振り返った。
「あ!碧先輩、お疲れさまです!」
「――浅倉?」
知らないと思ってたら振り返ったうちの1人は、部活の後輩の浅倉壱だった。
彼は1年生で入部して数ヶ月だけれど、物覚えがよくて腕もいい上に、社交的な性格の所謂すごくいいヤツである。
だけど今日は部活休みのはずだし、なんで浅倉がここに?というかもう1人は全然知らない子なんだけど誰だ?ネクタイの色からして1年生か。
「おー、碧やん。なんや、今から練習か?」
「先輩」
浅倉に聞く前に奥の倉庫から新崎先輩が顔を出した。その手には古い弓と矢。
「それ、何するんですか」
「ん?体験入部に使うんや」
「体験入部?」
こんな半端な時期に?
そう疑問に思ったものの、それで漸く合点が行った。ということは、あの子が入部希望者か。もう一度、浅倉の方に視線を送れば後ろにいた1年生と目が合った。
なかなか整った顔立ちをしている彼は、身長も俺と変わらないくらいだろうか。ちょっと、へこむ。
うちの学校は基本アクセサリー類は禁止されているが、彼の片耳にはピアスが隠すことなく存在を主張していた。それがまたやけに綺麗で、思わずボケッと見とれていると心なしかちょっとだけ睨まれた。え、俺なんかまずいことした?
すると浅倉が慌てて間に入る。
「すいません、先輩!コイツここ転校して数日なんですけど、すでに人間不信に陥ってまして」
「人間不信て…、なんでまた」
「そのピアスが悪目立ちしとるんやって。」
まあこの学校はいろいろ特殊やからなぁ、そう言いながら弓を転校生に渡す先輩。
「よっしゃ、撃ってみ」
「え」
先輩の唐突な言葉に軽く混乱しているらしい転校生。そりゃいきなり弓と矢渡されて撃ってみとか言われても困るよね。